さてさて。今回はやっとの事で点火時期関連のコンテンツ、一応の完結編としたいと思います。
やっとこさここまでご説明する事が出来ましたが、点火時期うんぬんって人様にお伝えするとなるとこんなに
説明がややこしいモノだったとは…これを書いている私も自分でびっくりしていますが(笑
…とはいえ、ここからがやっと応用というか実際の調整を見極める為の理論と実践になるのでもうちょっと
お付き合い下さいな。
こればかりは基本が分かっていないと結構リスキーなモノなので…
・いつもの目次
・パワーバンドのズレと点火時期設定のズレ
まず、市販スクーターの様な基本一律固定に近い点火時期、パワーの谷の補正部分等は考えていないと
いった、回転域や混合気充填効率に対応した進角も遅角も無い点火時期特性ではなく、ちょっと違ったというか
本当の意味での「一般的」な点火時期特性といった物の一例を出してみましょう。
と言いますかノーマルエンジン+マフラー仕様であれば谷の部分なんてほぼ使わないのでそんな調整は
要らないっちゃ要らないのですが、スクーターいじりだからといってそれが基本だと考えてしまうのでは
ハイチューン2stエンジンへの応用とは行かないのですよねこれが(汗
で、これは一般的、と言いますかレーサーとかのCDIであれば、明確にパワーバンド直前の谷の回転域が
ぱりっと「パワーバンド域に比べて相対的に」進角気味になっている、といった感じにはなっています。
一例として前回のコンテンツの最後に出した、縦型Dio系用キタコインナーローターのグラフを出しますね。
と、ちと見づらかったのでそれなりに異なる特性を持つ二種類のみのグラフとしました。
あ、前回のコンテンツのグラフで「ビート用」って書いてたのは表記間違いで「7E0」はDio用の初期型の
タイプでしたので脳内変換をお願いします(汗
さて、これはとりあえずのレーサー用、といっても良いCDI…というか点火時期設定なんですが。
実際はこのAF18系用のキタコインナーローターってCDIは使っていないので厳密にはCDI特性ではありません(汗
で、グラフを見ると、「低回転では点火時期が速く、回転が上がる程にどんどん遅くなってくる右肩下がり」の
点火時期となっています。
これ、アイドリング周辺とかの低回転域だと実際の走行では使用しませんが、エンジンが2000rpmだとしても
実際には着火ミスとかが頻発していて、2000rpmだからといって1分間に2000回確実にピストンを叩けている訳では
無いので、その辺りはエンストさせないとかの関連性も含めて点火時期が低、中回転で絶対的に進角していると
いった仕様、ここは市販車と違っている面が大きいです。
仮に中、高回転での充填効率、爆発&燃焼圧力を重視し、高回転側にパワーバンドを発生させてなおかつ
ピーキーになるエンジンであれば余計に低、中回転のエンジン回転を安定させづらくなるので、これもある意味
進角、というか点火時期を速めにして混合気充填効率の悪さ、着火率の悪さをカバーしているんですね
なので基本は、レーサーだと右肩下がりのマップ…ではなくグラフになるモノが多いんですよ。
で、このグラフを見て、とりあえずポン付け状態の点火時期は把握できたとしまして、皆さんならこの2種類の
点火時期特性をどういった風に活用しますか?
あ、点火角度そのものが担当の各回転域においてが速いか遅いかはとりあえず置いておきましょう。
これは前述の通り、「パワーの谷がある部分をパワーバンド域よりは進角させておきたい」といった基本の
理念があるのであれば、おのずと決まってくるものなんですね。
あくまで一例ですが、私なら「パワーバンド直前にパワーの谷がある」部分は進角気味、それ以降はある程度
相対的に遅角している点火時期としたいですね。
グラフの通り、全回転域が一律点火時期では無いのでそれが可能である、とも言えます。
具体的にはこんな感じになる、と言いますかこういったエンジン特性の車両にしか使えない、とも言えますが…
ちょっと見づらいですが、ピンクの線と青の線、双方の点火時期に対してどんなパワー特性のエンジンが
合うのか、を記してみました。
文字通り山あり谷ありの実線がパワー特性で、「先に点火時期特性ありき」であればどういったエンジンの
特性に合致するか、を記しています。
勘違いしないで頂きたいのは、実線のパワーグラフはあくまで「そういった特性のエンジンがある」と
いった事が大前提なので、こういう点火時期特性を付与するとパワー特性がこうなる、といった意味では
ありませんのでご注意願います。
…これは本来は手順が逆なんですが、こうしないと「谷の部分に出来るだけ速い点火時期を合わせる」といった
考え方が出来なくなってしまいますんで。
(※ここから先は別ウインドウか別タブでグラフ図を開いておき、文章と見比べながら読み進めて下さい)
まずは「7E0」の青線点火時期、こちらは9500rpmまで16°で、10000rpmからはがくっと遅角していく特性に
なっていますよね。なのでこの遅角が始まった以後の領域をメインパワーバンド領域に入れるしかなく、
点火時期を相対的に速めておきたい「パワーの谷」の回転域は16°領域に放り込んでいる、という事になります。
これはこの点火時期が「10000rpm程度で極端に遅角している」のでそうするしか無いんですが、これだと
自動的に、「9500rpm位が谷、10000rpm以上がパワーバンド」のエンジンにしか上手く合わない、
とも言えます(汗
これがまず一つ目の難しい点でして、点火時期特性を上手く利用し、パワー谷の回転域に相対的に進角して
いる領域を持って来ようとすれば、エンジン自体の仕様が決められてしまうという事にもなるんですね。
で、谷の部分の点火時期を無視するならば、極端に遅角が起こってしまう10000rpm以上の回転域はすぱっと
切り捨ててしまい、それ以下にピークパワー&パワーバンドが来る特性のエンジンなら無難ではありますが
6000〜9500rpm程度までほぼ一律点火時期なので、この辺のどこかにエンジンのピークが出る仕様に
くっつけてもOKでしょう。
が、ここで実際の点火時期と言うか、単体での「点火角度」を見てみましょう。
青線の点火時期だと、表記の様に9500rpm程度に谷があり、11000rpm程度でピークが出ているエンジンで
この点火時期を運用したとすれば…正直、11000rpm位のピーク時に点火時期がBTDC10°、という事になりますが
これ、こんなに点火時期が遅くてパワー出ると思えますかね?
実際は40〜50φ程度のボア径のハイチューンエンジンで11000rpmピークだとしても、いくらなんでもBTDC10°は
遅すぎます。これが仮にAF18系でリミッターの無いノーマルCDIでも11000rpm時には16°程度なのですから、
一般的なノーマル車に比べても話にならない程に点火時期が遅い、という事はお分かりかと思います。
ここで大切なのは、
CDIの点火時期特性、すなわち「各回転域における点火時期の変動」を把握し
それに伴った特性のエンジンに使ったとしても、「点火角度そのもの」が合っていないと
まるでパワーは出せない
…何を言っているのか分からない、という方もおられるかと思いますが、上記青線の点火時期特性を
ピークパワーが11000rpm程度で出るチューニングエンジンに使ったとしても、肝心の点火時期そのものが
BTDC10°じゃあパワー出そうな気がしないでしょ、と…
これを解決するには、仮に11000rpmならBTDC19〜20°位では点火させたいと私は思うのですが、
例題はDio系用のインナーローターなのでヤマハみたくベース移動での全域進角が出来ません。
となればこのブツは全域進角の手法は一つしか無いのですが…「それ」を行って、11000rpmにて
BTDC20°で点火する様に、ローター本体を10°進角させてやればOKなんですよ。
が、その反面、谷のある回転域での点火時期も同じく10°は進角するので、9500rpm辺りの点火時期は
BTDC26°まで進角してしまいます。
パワーの谷の部分「だけ」がこの位進角しているならばそれでも良いのですが、実際には6500rpmから
後は10000rpm程度までずーっとBTDC26°になるので、これはちょっと進角しすぎかもしれません、と
いう傾向が分析出来ますね。
が、ピークが11000rpmなのであれば6500rpm以降なんて回転域はすかすか、とは言いませんがかなり
混合気の充填効率は悪いので、BTDC26°程度でも行けない事は無い、と私は分析しますが。
あくまでケースバイケースですが、混合気の充填効率の悪い回転域だとその位でもOKだったりしますよ。
と、ここで上記の青線点火時期を、ウッドラフキーを抜きローター本体を10°進角させた状態の表を
記してみましょう。
…これ、正確に行うのはかなり難しい手法なんですが、Dio系用キタコインナーの場合、ベース進角に該当する
セッティングを行うには、ベースプレートを作り直す以外はこれしか手がありません(汗
あ、間違ってもノーマルフライホイールでそんな事やっちゃ駄目ですよ?ウッドラフキーが無いと確実に
走行中にフライホイールがズレますんで。
前述の説明の通り、点火時期グラフ的にはy軸を「全体的に」底上げした状態になりますが、ベースもしくは
ローター本体進角の場合、
各回転域の個別の点火時期ではなく、「全体」を同じ角度だけ進角、遅角させる
点火時期切り替え式CDIの様に、個々の回転数に対応した点火時期が変化するのでは無い、と
いった場合の違いを絶対にお忘れなき様にお願い致しますね。
で、こういった変更だと、「谷」のある9500rpm辺りはBTDC26°ですが、パワーバンドであるそれ以降の
10000rpm〜は目標であるBTDC20°程度に合わせられていますよね。
スクーターの場合だと、全開加速時には変速回転数が一定なのが基本なので、わざとアクセルを小さく
開けてやったりしないと、9500rpm/26°近辺を使った「加速」はしていかないのでそこまでデンジャラスには
ならなかったりしますよ。
で、仮にアクセル小開度で9500rpmの巡航を行ったとしても、混合気充填効率が元々かなり悪い谷の
部分であれば、いきなりトラブってボン!とかにはまずなりえないので。
そもそも、上手い事そこの回転域で巡航出来る様にアクセルを開けたとしても、なんとなくパワー感が
もっさりするので人間の方で無意識にそこを使う事を避ける様になるんですけれどね。
意識していなくてもそうなる事は多く、人間って不思議なものです(笑
が、こういった点火時期特性のCDIを使った上でベースを進角させた場合、「エンジン特性そのもの」が
6500〜9000rpm程度にパワーバンド領域を発生している、例えるならばノーマルマフラー仕様でそこそこの
ハイポート加工を行ったといった仕様の場合だとさすがに危ないですね。
混合気充填効率が良く、なおかつ燃焼速度も速いピークパワー&パワーバンド周辺の回転域での
絶対的な点火時期がBTDC26°ではさすがにやばそう、というのはお分かりかと思いますが、この辺を
勘違いしては絶対に駄目なんですね…
仮に、7E0のキタコインナーにて「パワーピークが7000rpm」程度に来るエンジン…ノーマルみたいな
特性のエンジンを回した場合、ポン付けならBTDC16°程度、ノーマル点火時期の17°より遅い位で
全く普通のLVなのですが、全体進角を考えるなら4°程度行えばそれで「7000rpm/BTDC20°」なので、
この程度で我慢しておこう、となる訳です(笑
…その上で都合良く「パワーバンド手前が」進角していれば良いのですが、これは前回書いた通りで
そんな事は一から点火時期をプログラムでもしない限りは不可能なので、ピーク領域に対しベターな
点火時期を合わせれば他はどうしても妥協が必要な面もある、というのが現実なんですね。
なので、この辺を見極められるのは実際の経験値も必要になって来るのですが、こういった点火時期が
エンジンの回転域ごとにそこそこ変化していっているCDIだと、いかにピンポイントで仕様用途、エンジン特性を
決めなければならないか、もしくは点火時期を見極めてセットしなければいけないか、といった事をお伝えしたい
訳なんですよ。
そして、もう一例のピンク線の点火時期の場合、こちらは「6500rpmが谷、9000rpm以上がパワーバンド」
といったエンジンパワー特性を一例として表記しています。
とはいえ、こちらだと点火時期そのものはともかく、点火時期の変移としては大して大きな変化は無いので
一例では谷が6500rpmにあってピークが9000rpm、といったあまりありえない位の変な特性を当てはめて
いますが、どんな回転域にピークパワーが出る特性のエンジンに使ったとしても、危険な方向性でのデメリットは
出づらいでしょう。
その反面、「谷」の部分のみを大きく進角させる事も出来ないので、その辺りのメリットもありません。
良く言えば無難、悪く言えば役に立たない点火時期特性、とも言えてしまいますけれどね。
このピンク線の特性のCDIを、青線のエンジンパワー特性と同じエンジンにくっつけた場合でも、谷のある
9500rpmで13°、ピークの11000rpmでも12°なので、どちらも全域進角にて8°程度進角させたとしても
極端には危なくなったりはしそうにありませんよね?なので「無難」なんですよ。
…こちらの例はグラフには示しませんが、青線の理解と理屈は同じなので、こういった線グラフを書いて
考えてみるのも理解への近道になりますね。
あ、それと補足ですが、このキタコインナーローターってのは点火力ってあまり強い方では無いので、
進角しすぎなセットでも火が弱いままだと結構持ったりもしますが…
実際の運用ではRS用のIGコイルとか高級レーシングプラグとかの併用は必須だと言っても良いでしょうね。