ベルトへの「側圧」とトルクカム(中級編)について



さて。今回はトルクカム関係のお話の「中級編」と銘打ってお話をさせて頂きますね。

前回は、縮む程反力の強くなるセンタースプリングという物体の解説と共に、トルクカムとの

兼ね合い、とも言うべき最初歩的な仕組みをご説明しました。

今回はひとつレベルを上げ、私もよく言う「トルクカムの効き」と言うものがどういった仕組みで

発生し、なおかつベルトに対して働いているかの解説をちょこちょこ始めようと思います。

が、これはかなりややしいので、巷に溢れている情報等はとりあえず忘れ、頭を柔らかくして

読み進めて下さいませ。

…今回は一応「中級」ですがコレは多分「上級」コンテンツを作ってもまだ終らない予感が(以下略



※今回も死ぬ程長くてややこしい為、ページ内リンクで目次を付けておきます。




・ベルトを「引く力」と「張る力」の区別について


さて、前回はセンタースプリングの役割と、それに絡んでトルクカムの働きを少々ご説明しましたが、

あくまでメインのお話は、

「センタースプリングの反力と、それに影響されるベルトを挟む力の変化具合」

と言う事でした。


※以後、「ベルトを側面から挟む力=側圧」と表記します。


これは結果的に「ベルト側圧」という物に対しての理解を得る為のお話だったのですが、このお話をするには

センタースプリングもそれ単体では考えられない事なので、トルクカムのお話も交えましたが…

その両方の力の和、「ドリブン側ベルトに側圧を掛け、ベルトを挟む力」と言う物、これは

ベルトをたるませず、スリップも最低限度に抑える為にベルトを「張る」力になっていると言う事なんです。


これが駆動系の伝達効率やメカニズムを考えるにあたり非常に間違いやすい点で、よく駆動系の

パワー伝達力を考える時に、「WRの遠心力 VS トルクカムの効き(+センタースプリング反力)」という感じで

ドライブとドリブンの力関係をイメージする事があるかと思いますが、これはあくまで


ベルトを「張る」力をイメージしているだけ


と言う点をまず覚えておいて頂きたいです。


実際には駆動系でのパワーの伝達経緯としては、ベルトを挟む(張る)力だけをいくら考えても意味がありません。

何故かと言いますと、「ドライブ側でベルトを引く力」もあわせて考えないといけないんです。

そして「ベルトを張る」と言う動作は、「基本的には」大半がドリブン側で行われるものです。

まずここをお間違え無き様にお願いしますね。もちろん全部が全部ではありませんが。

エンジンが停止していてWRに遠心力が掛かっていない状態でもベルトはダルダルですか?って事です。


で、皆さんご存知の通り、混合気が爆発してピストンが押し下げられ、それによって得られる「力」は、直接的に

トルクカム&ドリブンフェイスを回転させている訳ではありませんよね?

そうです、駆動系ユニットのドライブ側の

「プーリーやフェイスに力が伝わり、さらにベルトを介してドリブン側へと伝わっている」

んですね。


ではここで、いつもの絵で多少ご説明しておきます。

さすがに文字だけではつらくなってきたのでやむをえません(笑


ベルトを「引く力」と「張る力」



とまあ、簡単ではありますがこんな感じです。

実際にはベルトは「張られながら引かれている」ので、単純に分けて考える事は出来ないのですが

これはまず、両方を一緒くたに考えているといつまでたっても前に進めない、という私の経験から、

ある程度物事の動きと言う物を分けて考えて頂きたい、と言う事なので誤解無き様にお願いします。

(上記の絵の様に、ドライブ側はベルトを「徐々に挟んで」行かないと「変速」が出来ませんが、これが

ドライブ側で「最低限度の」ベルトを張る力になる、という点もありますので)


これが意外と、いや一番大事な事で、仕組み的には普通のバイクと同じく、クランクシャフトを回転させて得られた

力は伝達機構を介してリヤタイヤまで伝わる訳です。

が、これは通常はチェーンを介する「チェーンドライブ」であるのに対し、スクーターの場合は

「ベルトを介したベルトドライブ」といった方式になっています。

これが実は多大なパワーロスを生み出している事は事実なのですが、スクーターの場合は駆動系がきっちりと

構成されていたとしても、エンジン出力の6〜7割しか後輪に伝わっていないと言うのが実情なんです。

仮に、カタログスペックで7.2psの50ccスクーターをシャーシダイナモにかけた場合、上手い事行っても

後輪出力的には4〜4.5psもいけば上出来ですからね。


※参考までに昔の60ccフルチューンのFSクラスマシンで後輪出力15ps〜程度、

現在のSS1/32mile、08年度SAクラストップタイムマシン(はぶっくす号)で後輪出力10ps程度です。


スクーターの場合はシャーシダイナモだと上手い事測れませんが一応の参考までに。

で、何故にこんなに無段変速ベルト駆動のパワーロスがでかいのかと言いますと…

これは単純に、チェーンドライブでの駆動方式だと、スプロケの歯とチェーンとががっちり噛み合い、

エンジンパワーをほぼ無駄無く後輪まで伝えている事に対し、ベルト駆動の場合はある程度の

スリップロスがあるからこそ、駆動系でのパワーの伝達効率が無駄になってしまっているんですよ。


無段変速のスクーターの場合、ベルトには一応コグがあり、仮に相手が歯車の様な物であれば、スリップをほとんど

抑制出来るかと思いますが、実際にはコグを噛ませられる様な形状の駆動系パーツは無いのでそれは

事実上不可能と言う事になり、ベルト摺動面からの「側圧」のみでベルトを保持しないといけません。

しかしこれではベルトを横から挟んでいるだけのシステムなので、100%の伝達効率は得られないと言う事です。

アクセルを大きく開けたりエンジンのトルクが少しでも上がった場合だとベルトが滑り始めますね。


※「ベルトが滑る」とはいってもこれは実際に体感出来るモノではなく、滑ったとしてもトルクカムの作用で

ベルトの側圧はある程度保たれる物なので、明確に完全空転と言う意味ではありません。

これはちょっと難しいのですが、「回転方向へベルトが明確な空転をしている」のでは無いので、

「スリップロス」というのも「ベルトのかかり径の変化」が起こる為に必要な最低限のスリップ、と言う解釈で

お願いします。



が、これも皆さんご承知の通り、「変速」を行っていき変速比を変化させて速度を乗せて行かなければならない

無段変速の構成上、ドリブン側でベルトがぱっつんぱっつんに張られてしまう程の側圧を与えてしまうと、

WRには結構な遠心力を与えても、いつまでたっても1速状態のまんまですよね(笑

これは前回ご説明した通り、

「ドリブン側でのベルト側圧に対し、WRの遠心力が打ち勝った時点で変速が始まる」

ので、エンジンパワーや車重、走行負荷に対し、あまりにベルト側圧がオーバー気味なセッティングの場合だと、

変速を開始する、そして持続していく事に対してそれだけ「無駄な力」が必要となってしまうんです。

ドリブン側側圧が非常に強い場合、ドライブ側ではそれに打ち勝つだけの強い側圧が必要になりますからね。


なお、ドライブ側の側圧はベルトを挟む力のみならず、実際にはベルトを挟み込む方向へプーリーが

スライドする事により、外側へベルトをせり上げて変速を進め車体を加速させていく方向へ動いて

行くのも大切なポイントですね。

ドライブ側の側圧、すなわちWRで発生する遠心力は、

ベルトを挟みグリップさせるだけの働きではない

という点はお間違え無き様にお願い致しますね。


(ちなみにエンジン回転数が一定のままドライブ側側圧を増大させるには、WRの重量増やランプ&WRガイドの

傾斜角度の減少等が手法としてあります)


これは何故かと言いますとですね、先程も書きましたがベルトってのは基本的に過剰に滑っては

いけないのですが、本当は「変速を行っている途中の状態」だと、適度に滑らないと変速出来ないんですよ(笑

ドライブ側プーリーがWRで押し出されスライドしていっても、テーパー角度が付いているプーリーの

ベルト摺動面の形状があるからこそ、真横にスライドさせられているだけのプーリーで、ベルトを押し上げる

方向に動かせていますよね。


こういった場合、Vベルトにもテーパー角度はありますが、それでも摺動面に対して「せり上がろう」とする場合、

側圧が0だと完全に滑りますがその反面、ドリブン側をベルトで引っ張れるだけのグリップ力は必要ですし、

その状態でせり上がる、いやズレていくといった表現の方が良いかもしれませんが、とにかくベルトが

ドライブユニット外側に向かって「移動」する場合は、ほんのわずかにスリップしながら移動している

ハズなんです。

(これはもちろんドリブン側もしかり、ですが、ドリブンのスリップ率はドライブと比べ物にならない位大きいです)

もしもドリブン側側圧が異常に強く、ベルトが摺動面に対し100%グリップしていたとすれば、いくら

プーリーでベルトを押し、テーパー角度によってせり上げているとしてもそう簡単には動かないですから。

これはトルクカム&ドリブン皿のベルト摺動面で、「ある程度」はスリップが無いとVベルトでの変速と言う物は

不可能なんですね。

何故に「V」ベルト、なのかを考えればよく分かります(笑


なので、過剰なベルト側圧と言うものは、最低限度に必要なベルトスリップまで殺してしまいがちになり、

必要以上にグリップしているベルトをさらに滑らせる為に過剰な力を与えないと変速を進ませられない、と

言う事になるんですね。

そして「変速が進まない」=「加速していない」と言う事です。

これはWRを全部抜いてドライブ側側圧を限りなく0に近くして走行してみるとよく分かりますよ。

「変速が進行しない」という状態が一体どんな物なのかを、ね(笑


…もちろんドリブン側の過剰側圧に対応出来る様な強烈な遠心力を生む重いWR等を使うのもありといえば

ありですが、だからと言って「変速回転数」を同一にセットしても、変速過程におけるベルトスリップ具合が悪いと、

実際には全く性能向上が見られない場合もあるどころが下がる場合もあると言う事も付け加えさせて頂きますね。

これは私いつも言っていますが、「変速回転数さえパワーバンドに入っていればOK」と言う訳では無く、

「回転上昇のフィーリングに騙されず、ちゃんと前に進んでいるか」と言う事ですね。

もちろん、「変速中にエンジン回転が過度に上昇する」のなんて問題外です(笑


それと、これは最初に書きました様に、

「スリップロスがあるからこそ、駆動系でのパワーの伝達効率が無駄になってしまっている」

とも言い換えられるんですが、この適度なスリップが無いと変速そのものが出来ないので無段変速は難しい、と

言う事にもなるんですけどね(汗


とにもかくにも、前回のコンテンツにも書きました様に、トルクカムとセンタースプリング両者でのベルトへの

「側圧荷重」はノーマルでも過剰になっている事が多く、まずはノーマルパワーに対してどの程度の

ベルト側圧が必要なのかを、色々なパーツ構成を試して「自分基準」を作る事が一番なんですよ。

そしてタンデム前提の車両だと1名乗車では確実にハナから側圧過剰、と言う事も同義なんですが、

ひとつのセッティング手法としては、センタースプリングを可能な限り弱くしていってみれば良いんです。

もちろん変速回転数はWR調整にて同一に合わせた状態で試すのが絶対条件ですけどね。

(ノーマルだと標準体重の人だけが乗るとは限らないのでタンデム車でなくとも側圧にはそれなりに

余裕がある、と言う点もありますし、タンデム前提ならなおの事です)


と、走行負荷に対してベルトが極度にスリップしない程度の「ドリブン側ベルト側圧」を、トルクカムの効きと

センタースプリングの反力にて稼ぎ出していれば、走行負荷の一番大きくなる発進時でも、「ベルト側圧」は

それで十分な場合がありますし、その丁度良い力関係を見つけるのがまず大事と言う事です。

分かりやすく言いますと、側圧が過剰だとものすごいパワーを出さないと上手い事変速しませんし、なおかつ

実際の加速も悪くなる、って事ですね(笑


あ、だからといってちょっと位パワーを上げた程度でセンタースプリング即強化、ってのは大間違いなので

ご注意下さいな。

分かりやすい一例として、センタースプリングを強化してWRを重くし、変速回転数は同一のセッティングを

施したとしますよね?

この場合だと、アクセルに対するエンジン回転の反応はキビキビとしている感じになるのですが、

これは「ベルトがグリップしすぎて」、反応が良い様に錯覚している事が大多数ですから(断言

実際の加速力、再加速力等ではまともなセッティングを施した物には及ばないですからね。


…この辺りを上手く調整出来れば、仮に3YK-JOGのFP仕様とかでも、JOG-ZRですらなくJOG-Zの

ノーマルセンタースプリングでOKな程度の駆動系構成も十分作れたりします。

もちろんトルクカムが45°一直線ってのはナシですし、私に言わせればノーマルで速いと言われた3YK-ZRでも

かなりのロスがあると思いますよ。正直3YK-Zの駆動系構成の方が1ランク上の良いバランスですし、

私の知る限りでは、フルノーマルの駆動系という点に限定すれば3YK-Zは最良の構成だと思っていますし、ね。

あ、もちろんこれは「センタースプリングだけが弱め」だからって理由のみじゃ無いですよ(笑



・ベルトを「引く力」とエンジン軸トルクの関係


では、ここからは先程の「ベルトを張る力」に対し、ベルトを引く力と言う物についてご説明しましょう。

先程の絵にも書きましたが、チェーンの代わりにベルトにてドライブ側からドリブン側へのパワー伝達を

行っているVベルト式無段変速の場合、適度なベルト側圧にてベルトをグリップさせておいた状態で

「ベルトを引く」となれば、これは単純にエンジン…と言いますか、クランクシャフトの回転による力を

元にし、ドリブン側をベルトを使い引っ張っている訳です。

難しく考えなくとも、ドライブユニットを手で回してもドリブンユニットが回される、って事で(笑


単純に、ピストン下降によるクランクシャフト回転のパワーをドリブン側に対して伝えているというのが

「ベルトを引く力」なのですが、ここで一つ間違ってはならない点を。

「クランクシャフトを回し、ドリブン側を引く力」と言う物は、


「トルク(kg-m)」であって「出力(ps)」ではない


と言う点です。


これはですね…クランク軸出力でベルトを引くのであれば一般的に言われる「出力(ps)」だろう?って

思われるかもしれませんが、ドリブン側ベルト側圧を稼ぎ出す為の「トルクカムの効き」をご説明するのには

どうしてもこれを書かなければいけないので…ややこしいですが我慢してお読み下さい(汗


まず、ここを読まれている方であれば「出力(ps)」の値は「回転数(rpm)」×「トルク(kg-m)」といった計算で

求められる、「単位時間あたりの仕事量」と言うのはご存知かと思います。

ここで簡単に…ライブDioZXでも一例に出しますが、ノーマルだと最大トルクが「6250rpm/0.81kg-m」 で最高出力が

「6500rpm/7.2ps」になります。

(参考までに最高出力状態での軸トルク値は、(6500rpmx0.793kg-m)/716=7.199psになっており、実トルクは

7.2psを発生している時には0.793kg-mまで低下しているはずです。が、トータル出力は最大をトルク発生する

回転数時よりも上回っているという事ですね)


この「トルク値」と言うのは、「回転軸から1m離れた所の○kgの物体を移動させられる力」ですから、

ハンマー投げみたいな物で、クランクシャフトは回転運動ではありますが、1m先にくっつけた物体を振り回す力、

とでも考えて良いかと思います。

(仮にトルク値が「0.81kg-mだとすると、軸から1mの所に0.81kgの重りを付けても移動させられる」と言う事です)

「回転数(rpm)」と言うのはあくまでその軸が1分間に何回回っているかを示す数値なので、それ単体では

「力」には出来ない事は皆さんご承知の通りですね。

ハンマー投げでハンマー持たずに人間だけ高速回転しても腕の先にはパワーは出ないでしょ?(笑


なので、物理的に「ベルトを引く力」と言う物は、「クランク軸回転数」ではなくて「クランク軸トルク」と言う事が

お分かりかと思います。

…実は、ドライブ側プーリーはWRへの遠心力が強くなればなるほど、ベルトの側圧も高まっていく上に

その力によりベルトがせり上がる方向性の力という物も「ベルトを引く力」に関わっているのですが

またごっちゃになるのでとりあえずここでは割愛しますね。



では、ここでその「ドライブがドリブンをベルトで「引く力」と言う物がどんな物なのかをご説明します。

ここでも絵を描いてみますが、下図の様な変速比を持つ駆動系構成があると仮定して下さい。


ベルトを「引く力」の変化



と、とりあえずですが一般的な駆動系構成として、


・最小変速(最大減速)状態

・最小ドライブ径40mm
・最大ドリブン径100mm

・最大変速(最小減速)状態

・最大ドライブ径100mm
・最小ドリブン径80mm

・変速比は2.5〜0.8


といった感じです。非ZXのDioやJOGと同じ位の変速比になってますが(笑

あ、「径」ってのは単純なベルトかかり径なので、変速比を実測したりする時にはよく使いますよね。

そして、このエンジンのクランクシャフト発生軸トルクを…「0.8kg-m」にしましょう。

ライブのノーマルエンジンって感じですが、変速比も含め現実的で分かりやすい数値と言う事で。


ではまず、「クランクシャフトのトルクがベルトを引く力」と言う物の力のかかり方として、

最小変速状態の場合、ドライブ側ベルトのかかり径は「直径40mm」となっていますよね。

ここに先程仮定した「クランク軸トルク0.8kg-m」の力がかかる訳ですが、これは軸の中心から

離れた所にベルトがかかっていますし、なおかつかかり径40oというのは「直径」になるので、

実際にクランク軸トルク0.8kg-mが、ベルトかかり径40oの点にかけられる力は…


ベルトかかり半径20oの点:1000oの50分の1の所なので0.8(kg-m)x50倍=40kg-m


となります。

この「1000oの50分の1」と言うのは、ベルトかかり径の半径20o点に対して、どれ位

「クランク軸トルク」が増大しているかを表しています。

あくまで「軸トルク値」と言う物は、軸から「1m(1000o)の点での力」なので、力のかかる点が

軸中心部に近づけば近づく程大きくなる訳ですね。

実際には軸中心から20oという距離では、50倍ものトルク値でベルトを引いているんですよね。


そして最大変速時、ドライブ側ベルトかかり径が100oまで大きくなった場合だと、


ベルトかかり半径50oの点:1000oの20分の1の所なので0.8(kg-m)x20倍=16kg-m


と言う事になりますね。


また絵に書いておきますがこんな感じです↓


ベルトを「引く力」のトルク換算値



最小変速時にはドライブ側ベルトでドリブンを引く力は40kg-mで、最大変速時だとわずか16kg-mまで

落ち込んでいますね。


ちなみに、これはあくまでテーパー状の摺動面に張り付いている状態のベルトで、ドリブンユニットを

「引いて回転させる」為のベルトを引く力なので、実際の「ドリブン側軸トルク値」は数十kgもある訳では

ありませんよ。

これは簡単で、減速比を考えればすぐに分かります↓


最小&最大変速時のドリブン側軸トルク変化



と、参考までに軸〜軸までの変速によるトルク値伝達変化の違いと言う事で。

これは普通のバイクの1〜6速までの減速比変化と考え方は同じです。

最小変速状態の時には、

クランク軸で0.8kg-mのトルクが発生していると

ベルトを40kg-mの力で引き

ドリブン軸に伝わるトルクは2kg-mまで増大している

という事ですね。


あ、これはもちろん、ベルトが側圧により100%グリップしているという事が大前提ですが、ここで

暫定的に求めているのはあくまで「ベルトを引く力」なので、「ベルトを挟む力」である側圧とはある程度

割り切って考えられる事が出来ます。

…まーた某掲示板とかで突っ込まれそうですが、私が言いたいのは…仮に何かの駆動系パーツを交換して

ベルトを「張る力」をいくら増大させたとしても、ベルトを「引く力」が向上するとは思えないでしょう?と言う事ですね。


なので、

いくらベルトの「側圧」を強化しようが、ベルトを「引く力」すなわち「駆動力」に対しては

ある一定の値より向上が見られる訳が無い

のです。


そしてこの「一定の値」と言うのが、「適度にベルトがスリップしつつグリップしている最適な状態」となります。

さっきも書きましたが、ドライブ&ドリブン共にベルトスリップ率が完全に0になる程の強烈な側圧をかけてやれば

駆動力自体は上がった様になりますが、それじゃ1oも変速が行えませんから(笑

変速比が増減すると「ドリブン側軸トルク値の変化」は起こりえますが、それに対して必要以上にベルトを

ぱっつぱつに張ってしまう方向へセッティングを振ったとしても、走行負荷の高い発進時の一瞬のみならば

ともかく、それ以後の加速側変速中のメリットは全く無いと言う事に繋がります。


そして、エンジンの「トルク」を上げてベルトを引く力を強くした場合でも、それに伴って

走行負荷は同じでも強い力でトルクカムが引かれ、余計にベルト側圧が強くなる

ので、WRを重くしてより強い遠心力を稼がないと今までと同じ変速が行えないという症状もありますからね。


もしも、エンジンのトルクが上がってトルクカムの効きが強烈に「なってしまった」場合、トルクカムやセンター

スプリングの「効き」によるベルト側圧は…今までより弱めてやらなければならない場合もあるんです。


さすがにベルト自体が一気に空転する程の、今までの数倍のトルクUPとでもなれば逆に側圧が足らなくなり

こうは行きませんが、そんな激変なんて普通のチューニングで起こそうと思ってもかなり難しいですからね(笑

回転数×トルク値の「出力」を上げるのは簡単ですが、クランク一回転での力である「トルク」を大幅に上げるのは

なかなか難しいですし。仮に排気量を2倍にしたからといっても「トルク」まで2倍にはなかなかなりません。


2st125系のレプリカやOFF車ならともかく、1種と比べて分かりやすく排気量が倍のリードの100やグランドアクシス、

アドレスV100でもカタログスペックだとリード1kg-mでグランドアクシス&V100で1.1kg-m程度ですし。

そもそもドライブ側はともかくドリブン側でベルトが空転しようとしても…これは次の項目でご説明する絵の通りの

働きが起こるので、ドリブン側ベルト完全空転ってやろうと思っても無理ですよ。

冗談ではなくトルクカム引き千切る勢いが必要です。


で、私の経験上では、JOGの50を90ccでハイチューンしようが、Dioの50を88ccでハイチューンしようが、

ノーマルなLVより強いセンタースプリング等が必要になった事すらありませんしね。

Gアクや2種リード系はさほど詳しくありませんが、それでも「元」を考えると簡単には要らないと断言しても

良いですよ。


…これもまた世間の風潮と言うか一般チューニング論(?)を根底から覆す様な理屈ですが、ここまで

頑張って私の理論をお読み頂けた方にはご理解頂けると信じています。

なのでやはり、ボアアップしたりチャンバー付けたりしたらセンタースプリング強化とかきっつい溝角度の

トルクカム投入とかってのは、パワーを無駄遣いし駆動系の耐久性を貶めるだけの愚策の極みとしか

言えないのですよ…



・加速時のドリブン側ベルトの「スリップ」という動き


さて、ここで閑話休題としますが…

私、「ベルトは変速中に適度に滑っている」と書きましたが、これがどういった物なのかを

軽くご説明しておきますね。


まず、一番簡単な加速側変速において、ですが…

これは皆さんご覧の通り、「WRの遠心力においてドライブ側ベルトがせり上げられ、逆にドリブン側の

ベルトが中心に向かって引き込まれていく」と言う事ですね。

この状態においても、ベルト側圧が100%の力でかかり、スリップ率が完全に0である場合だと、

ベルトの移動そのものが行われずに変速自体が成立しません。

なので、加速側変速の状態では、ドリブン側ベルト摺動面の2枚のお皿、トルクカム皿とドリブン皿は


ベルトに対して両側共に均等なスリップをしている


と言う状態になっているんですね。

「これが均等で無いと、変速自体が進行して行かない」と言うのが、変速進行が可能なベルトスリップ率とも

言うべきモノになります。


仮に、このグリップ力が双方のお皿で違ってしまった場合はどうなるかと言いますと、分かりやすく

また絵を書きますが…


ドリブン側ベルトのスリップとは



こんな感じですが…

その前にまず「ベルト側圧」と言う物は、A皿からもB皿からも均等にかかっていると言う事が大前提です。

これは片押しキャリパーと同じで、ピストンは片方のパッドしか押していないのに、実際にディスクを挟む力は

両側均等にかかっていますよね。と言うかかかっていないとブレーキとしてヤバいですが(笑

これと同じで、ベルトは片側からトルクカムとセンタースプリングで押されている様に見えても、実際には

ベルトの両側へかかる側圧は確実に均等になっている、と言う事をお忘れなく。

(「側圧」はベルト両側面共に対し同等でも、実際の「グリップ力」は皿の材質や熱による摩擦係数変化にて

変化してしまいますが、これは具体的な説明が不可能なのでスルーします…)


で、図中リヤタイヤ直結のB皿は、仮に走行抵抗による負荷がかかってしまった場合でも、だからといって

ドライブ側でベルトを「引く力」は変わらないので、物理的にベルトに対して滑るしか無いんですよ。

となれば、A皿であるトルクカムも一緒に滑りたいモンですが、これはトルクカム溝というシステムがあるので

A皿とベルトのグリップはある程度保ったまま回転するという方向性になるのです。


そうすると…A皿のトルクカムがB皿を置き去りにして前方へベルトごと回転する方向へ動いた場合、

トルクカムピンに角度の付いた溝が押し付けられ、トルクカム本体が狭(せば)まっていく方向へ動くんですよ。

これこそが、私がいつも言っているトルクカムの効きであり、「キックダウン」とも言うんですけどね(爆


もちろんトルクカムA皿自体は、トルクカムピンと溝角度による抵抗があるので、いくらベルトに引っ張られるとは

言え、そうやすやすとは回転しません。(閉じません、と言うべきかな)

が、上り坂等でじわじわと負荷がかかった場合等は、この様なトルクカムの動きが少しずつ起こっていき、

今まで走行していた変速回転数で坂を上れる変速比(減速比)が得られるまで

徐々に駆動系のシフトダウンが起こるのです。

(※もちろんアクセル開度は変えずに=クランクの軸トルク変化を起こさずに坂に差し掛かった場合です)


逆に、ドライブとドリブンでのベルトかかり径が平地と同じで、上り坂でのキックダウンによるベルトの移動が

行われないままのハイギヤード状態の場合だと、上り坂での走行負荷にエンジンパワーが負けてしまい

エンジン回転数がどんどん落ちてしまって…下手すると最後には止まるかもしれませんよね。

これが、上り坂でも変速回転数が過剰に上がらないというトルクカムシステムの素晴らしい一面でもあります。



そしてもう一つ、加速中に急激にアクセルを開けた場合だと、坂道の様にじわじわとした負荷が両方の皿に

かかるのではなく、一気に大きな力が「A、B両側の皿を引く」のですが、こうなった場合でも上記と理屈は同じです。


アクセルONでのキックダウンの原理



ちょっと注釈を多めに付けましたが、これでお分かりでしょうか?

これも先程の「走行負荷」と同じで、ベルトを引く力を増やしてやれば、A皿とB皿でのスリップ率の違いが生まれ、

トルクカムを効かせる方向に働き、駆動系はシフトダウンせざるを得ない、と言う事です。

トルクカムって本当に偉大なんですよ(笑


ちなみに最初に言いました「加速側変速の状態では、ベルトに対して(A&B皿)両側共に均等なスリップを

している」という件は、実はクラッチイン〜ミートまでの変速状態も絡んでくるのですが、クラッチが完全に

ミートし、変速(=加速)が開始されてからは両側の皿共に均等なスリップ率になり、トルクカムがガツンと効かずに

走行負荷で発生するトルクカムの効きとセンタースプリング反力に対し、WRの遠心力が勝って行くという状態に

なっている、「100%理想的な状態で変速進行が行われている状態」って事です。

(※「動力の伝達効率」は100%ではありませんよ)

…とはいってもクラッチイン〜ミートまでの動きはちと理解しにくいので、これは次のコーナーでご解説しますね。



・クラッチイン〜ミートまでのトルクカム負荷


次に、上記の「発進直後のトルクカム動作」についてちょっとだけ補足入れておきますね。

実際の目視では発進直後に変速が始まっている事がありますが、実はコレ走行負荷によるトルクカムの効きで

すぐに駆動系は最小変速状態に戻される方向に動いてたりします。フルノーマル車でもです。


これ、目視ではちょっと分かりづらいですが、クラッチインまでの間に変速開始しているというのは

さすがにおかしいですが、車体が動き出してクラッチが完全ミートするまでの間までには、間違い無く

変速の進行って多少は行われているんですよね。

が、こうなってると完全にリヤタイヤに対し駆動力が100%伝わる前に変速が始まってしまっているのとも

同義と言えるので、何かおかしいんじゃ…


と思われる方もいらっしゃると思いますが、コレは簡単な話で。

発進直後は半クラッチ状態になっている

って事です(笑


クラッチが完全に繋がるまでは、リヤタイヤからの走行負荷は100%ドリブン&トルクカムに伝わる訳では

無いので、発進直後に駆動系のシフトアップが始まっている事もあるってだけです。

駆動系のシステム的には、クラッチが滑っていればベルトが滑りにくく、クラッチが繋がり走行負荷が

かかればベルトが滑る、といった風になってなければ、多大な走行負荷がかかったとたんにエンストこきますね(爆

なので、「ベルトが滑る」のなんて当たり前ですし、一般的に言われている「ベルト滑り」なんてのは明らかに

他の所の不具合を勘違いしているだけの事が多いと思いますよ。



「それなら発進直後の走行負荷が高い状態では、何で強烈にドリブン側でベルトを張って、

クラッチイン〜ミートまでの間にわずかでも起こってしまう変速進行を抑制するセットにしないんだ?」



と思われる方もいらっしゃるかと思いますが。

クラッチイン〜完全ミートするまでの間に全く変速が進行しないというLVまで駆動系を

セットしてしまおうとすれば、とんでもなく強力なセンタースプリングを使わない限りは絶対に不可能です。

「クラッチイン〜ミート寸前」までの間はドリブンユニットはリヤタイヤと直結ではありませんから、この状態だと

走行負荷が極度に少ないのと同じで、いくらドライブ側でベルトを強く引っ張ってもトルクカムの効きなんて

知れているんです。仮に45°溝でもドリブン側の皿への負荷が無いとトルクカムの効きなんて知れてますので、ね。


なので、半クラッチ状態の時に「ドリブン側ベルト側圧(トルクカムの効き+センタースプリング反力)」にて

変速抑制を行おうとする場合、トルクカムの効き自体がほぼ出せないので、アホみたく強烈なセンター

スプリングが無いと変速抑制は不可能なんですよ。

…この辺ってですね、実はごく一般的に解説されているクラッチイン〜ミート〜変速の図解とかがある意味間違って

いると言わざるを得ない部分もあるのですが、それはハイブローな理屈なので詳細はまたの機会にしますね。



簡単に一例のみ出しておきますと、ここでもライブDio-ZXの例で、この車両はフルノーマルの全開加速時には

変速回転数がおおむね6500rpm程度です。

(個体差はありますが平均値、と言う事で)


これは普通の「実走行状態で100%の負荷のかかっている変速回転数」となります。

これをですね、走行負荷の全く無い、センタースタンドを立てた状態で、

アクセル全開にしてみるとどうなると思います?


WRの重量やアクセルの開け方は換えていないのでもちろん6500rpm変速…にはならないんですよ(笑

これ、完全に駆動系に対し無負荷で変速を行うと、変速進行はおおむね


3500〜4000rpm程度で起こってしまう


んですよ…


無負荷空転時の変速進行と言うのは、実走よりははるかに低い変速回転数にて行われるんです。

なので、クラッチが完全ミートしきらない状態では、エンジン自体が実走行にて設定している変速回転数より

低い回転数の状態でも、変速の進行は起こって当たり前って事になりますね。負荷が少ないですから。

なので、クラッチイン時ではまだ最小変速状態を保っていた場合、完全ミートまでのわずかな時間では

どうあっても抑制不可能な変速進行、シフトアップは起こっているのです。


で、さっきの一例のライブDio-ZXの場合だと、無負荷空転での変速回転数は約3500〜4000rpmですが、

WRを重くしない以上、これ以下には物理的に下がりませんよね?

そして、これは負荷が0の場合の変速回転数ですから、実際の走行だと発進直後とはいえリヤタイヤは

地面に付いてますしクラッチもちっとは繋がっているので負荷は完全に0ではなく、クラッチイン〜ミート間の

変速回転数自体はもうちょっと高いです。上限で4000rpmって所でしょうか。


実はここがノーマルセッティングの特筆すべき一つの点でもあるのですが…ライブDio-ZXの「クラッチイン」の

回転数ってのは約4000rpmになっているんですよ。

となれば、物理的にはありえませんが走行負荷が極端に低く0に近い状態で全開発進したとしても、



クラッチインの時点では変速開始回転数がクラッチイン回転から大幅にズレる事が絶対に無く

ミートするまでの間には負荷が増大し変速回転数が上がって行くがその上昇率も最小限に

押さえ、100%の負荷が掛かっても規定の変速回転数をオーバーシュートする事は無い



という、各セクションの限界点を見極めた最良の「セッティング」になっているのです。

無負荷変速回転数が「最大」4000rpmでクラッチインが4000rpmの設定なら、クラッチがアウターに触れる前に

変速がどんどこ進み完全ミート後に最小変速状態まで戻るのに多少ロスする、ってのはまずありえませんからね(笑

両車をギリギリまで同調させておけば、クラッチミートした時点でキックダウンが起こり変速を最小まで

戻すのにも出来る限り少ない動作で行えると言う事です。


これを逆に捉えると、自身の車両の「無負荷全開の変速回転数」と「クラッチイン回転数」を

出来る限り近づけて置くのもある意味分かりやすいセッティング手法の一つとも言えたりもしますよ。

なので、私の基本理論でもある、

「クラッチミート回転数は最低でもパワーバンド回転域下限に入れなければならない」

と言うのもちょっと違った意味合いですがお分かりかと思います。

あ、これは間違えて「クラッチイン回転数」をパワーバンド回転域に入れちゃ駄目ですよ?

上記の通り、リヤタイヤが動き出した瞬間にエンジンがパワーバンド回転数に入ってたら、半クラの

状態がその後ありますんで完全ミート時にはエンジン回転数は確実にオーバーシュートしてますからね(汗



…とは言いましてもですね、ココは一般認識とはちょっと違う駆動系のシステム解説になっているので

難しいと言うか訳がワカラン方もおられると思います(汗

とりあえずここでは、


1:クラッチイン時には最小変速状態を維持している

2:クラッチミートまでのわずかな時間で、駆動系のシフトアップは意外と顕著に行われる

3:完全ミート後にはトルクカムに100%の負荷が掛かり、シフトアップした分はキックダウンで戻る

4:そこで初めて、「最小変速状態(最大減速比)」からの加速が始まる


という一連の流れだけを把握しておいて頂きたいと思います。

…なので、よくある駆動系図解みたいなのはちょっと間違っているとも言えるんですよ。

上記の様に「無負荷空転」の場合だとスムーズに変速進行って行われるのですが、実際に

走行負荷を掛けた場合は実は違った動きをしている点がある、という事です。

まーた電波理論とか言われそうな気がしますが、私に言わせりゃ無負荷空転状態の駆動系見て

色々解説したって頭固いだけで意味無いと思いますから、ね。

実走状態ではきちんと各部の仕組みを理解していないと分析は無理とも言えますよ。



そしてこの件に関連付けてもう一つだけ補足をば。

まだ現在でも勘違いされている方がおられる様ですが、変速進行での力関係と言う物が、



「WRの遠心力 VS センタースプリング反力」



にのみ制限されている、といった事についてです。

これ、上記で一例を出しましたが、無負荷の状態では変速回転数は極端に落ちます。

なので、変速進行が本当に、「センタースプリング反力のみに対しWRの遠心力が打ち勝った所」で

始まるのであれば、走行負荷があろうがなかろうが変速回転数なんて一律で変化する訳が無いんですよ。

すなわち、トルクカムの力を加味しないこの理屈は大間違い、って事になりますね。

走行負荷がトルクカムの効きに大きく影響しますし、変速進行においての力関係のバランスは、

「WR遠心力 VS センタースプリング反力+トルクカムの合力」って事になります。


後、トルクカムも「負荷がなければほぼ効かない」物ですが、これは走行負荷のみに感応する物ではなく

「ベルトを引く力=軸トルク」にも大きく影響されると言う事です。

アクセルの開け具合一つでも、トルクカムの効く強さと言うのは変化しますので、ね…

嫌な言い方ですが、「アクセルをON/OFFでしか扱えないライダーだとこの辺の機微を感じ取るのは無理」と

言わざるを得ないです(汗

世の中、なんでもかんでも全開くれりゃ100%最高効率って訳でも無いですからね…



・最後にまとめ


とまあ、今回も異常な文章主体理論になってしまいましたが、ちっとは絵を入れたのでなんとか

分かりやすい部類だと思いますんで、論文とかに比べりゃマシだと言う事でご勘弁をば(汗


では最後に、今回のコンテンツの主幹とも言える所を簡潔にまとめておきますね。


私の一番言いたい事は、ドリブンユニットの一部である「トルクカムの効き」という物は、

ベルトをドリブン側に「引いている」のではなく、ドライブ側で引かれているベルトを「張っている」と

言う働きをしている、と言う事なんです。

「ドリブン側でエンジンパワーを発生してベルトを引き、それに対してWRの遠心力でドライブ側ベルトを

張っている訳ではない」というのが一番のミソになります。

ドリブン側にはピストンとかありませんからね(笑

これはベルトを「引く力」と「張る力」を一緒くたにしてしまっては勘違いしやすいのですが…

駆動系を考える時にはまず、リヤタイヤからの走行負荷も含めた「トルクカムありき」なんですよ。

エンジンパワーを発生しているのはクランクでドリブン側なんですが、パワーの伝達効率の支配力が

強い上にまず考えなくてはならないのは実は「ドリブン側」です。


ドライブ側でのベルトを挟んで張る力は、WRがプーリー内の傾斜のついたスロープ&ランププレートの

スロープで挟まれた部分に遠心力でどんどんめり込んで行く事により、結果的にプーリーとドライブフェイスの

間隔が狭くなって行って、これまた角度のあるベルト摺動面のおかげでベルトがムリクソ外側へ押されて

ベルトを「張っている」という動きがメインですが、これは「ドリブン側をベルトを引く力」にはなって

いませんよね。


ベルトを引く力は、クランクシャフトが発生する「トルク」によって生み出されているのであり、ベルトを

挟む力、すなわち側圧はその「ベルトを引く力に対してベルト側面が摺動面に対し過度にスリップしない

最低限度の力」であれば良いと言う事なんです。


もっと分かりやすく言いますと、初級編の通りセンタースプリングの異常強化は当然として、


感覚的な「ベルトスリップ(の様なモノ)」を恐れるあまり、

現状の走行負荷の大きさ&ベルトを引く力(駆動力)に対して

意味の無い程に過度なドリブン側ベルト側圧を掛けてしまうと

それだけエンジンパワーを「そこ」に喰われている


と言う事ですね。


いっつも私言ってますが、「人間の感覚でベルトががつんとグリップしていると感じる」のは、

尻に伝わるエンジンの感覚だけで判断してもそれは「速そうな気がするだけ」な事が非常に多いんです。


上記のクラッチイン〜ミートの流れもそうなんですが、わずかもシフトアップしていないクラッチインの

「瞬間」のみだと、ドライブ/ドリブン共にベルト側圧を上げてベルトスリップがほぼ0になる様な

セッティングでも有効だとは思いますよ。


ですが、そんな事をしてもわずかな時間の半クラッチ状態の間には変速を抑制しまくってしまい、

クラッチが完全に繋がった時以降は、その異常な側圧をどうやって抜いていくんだ?と…

車のCVTみたく電磁コントロールによってベルト側圧を制御出来るのなら話は別ですが、トルク感応型の

トルクカムと物理的に単純なバネであるセンタースプリング構成である以上、そんな事はほぼ無理です。

なので、過剰なベルト側圧はリヤタイヤが動き出す一瞬だけにしか有効にならない、って事を断言させて

頂きますね。


…周回レースやSS1/32mile、下手したら街乗りでもそうなんですけど、単に発進時のフィーリングや

ちょっと加速しただけの感覚を最優先してセッティングを行うと、他の所全てが犠牲になる可能性がでかいんです。

どっかで書きましたが、変速状態に関係する物を変更した場合、少なくとも最高速付近まで一度は

まくって走らせてみないとセッティングもクソも無いと言う事ですよ。

何か換えても数m走っただけでは意味はありません(断言

これは以前にも言いましたが、とても大切な事ですよ。


そんな方向性でやってると、エンジンパワーを上げても「ベルトを張る力」に変換するだけ

セッティングに陥る方向性になりがちなので、エンジンパワーを上げたってあまり意味がありませんからね。

トルクカムをギンギンに効かせドリブン側ベルトを張る為にエンジンパワー上げてんのか?って(笑

それでは加速は絶対良くなりませんし、駆動系パーツの耐久性も著しく落ちます。



ベルトを「張る力(側圧)」を必要以上に強化しても意味は無く


ベルトを「引く力(駆動力)」を強化するのがエンジンチューンであり


ベルトが「最低限度滑らない」構成を考えるのがセッティングになり


ベルトを「引く力」と「張る力」を一緒くたに考えては駄目で


無段変速の場合はベルトは「適度に滑らないと」変速も加速も出来ない



という感じになりますね。これ今回の格言って事で(笑



と言う訳でまとめてみました。

ですがこれだけではまだまだお伝え出来ないところが多すぎるので、不明瞭な点も出るかと思いますが

その辺は一から全てをご説明しないと難しくなってしまうのでなんとも難しいですね_| ̄|○

もちろん、今後とも「一般の通説」が大いに間違っていたり誤解されている部分と言うモノをさらにがっつりと

掘り下げますんでよろしくです。



さて…実はここのコンテンツではですね、私一箇所だけ一見矛盾してる様な事を言ってるトコがあるんです。

鋭い方ならお気づきだと思われますが、「変速進行によるドリブン側軸トルク値の減少」なんですけども、

これが起こっていけば、その分だけ「変速進行に伴いトルクカムの効き自体も低下して行く」と言う事なんですよね。


「え?それなら仮にトルクカム溝が45°一直線でも、変速進行につれてトルクカムの効きが弱くなって

行くんだから、変速の後半で溝を立てたりする必要は無いじゃないか!」


と思われる方もおられるかと思います。と言いますか普通そう考えられるかと(笑

センタースプリングと合わせて考えても、センタースプリングの反力増大とは相反してトルクカム自体の

「効き」が、変速比低下により減っていくのならベルト側圧的には丁度良い、って気もしますが…これは実は

そうそう上手くは出来てはいないのですよね。システム的にはそんなに甘く無いんです。

そしてそれはこれは次回の講釈と思っていますが、実はそれに関連するベルトスリップ率と言う物は計測も

計算も出来ないモノなので…

コレを考えるのもご説明するのもどうしても難しくなってしまいますね。


…本当は前回コンテンツでコレを書いて今回詳しくご説明するつもりだったのですが、やはり無理でした(笑

物事は順を追って行かないと駄目ですからね。

今回はあくまで「ベルトを張る力と引く力の違い」、「変速比変化による伝達軸トルク値の変化」、そして

「トルクカムの走行&アクセルONの負荷によるキックダウン機構」、そして「クラッチイン〜ミート状態までの

トルクカムの動き」をご理解頂ければ、と思います。


…駆動系はGIFアニメでも作れればもっとご説明しやすいかなと思う今日この頃ですが(笑

ツッコミ等があればどしどしお寄せ下さいませ〜


「スクーター改造」に戻る