さて。今回はトルクカム関係のお話の「中級編」と銘打ってお話をさせて頂きますね。
前回は、縮む程反力の強くなるセンタースプリングという物体の解説と共に、トルクカムとの
兼ね合い、とも言うべき最初歩的な仕組みをご説明しました。
今回はひとつレベルを上げ、私もよく言う「トルクカムの効き」と言うものがどういった仕組みで
発生し、なおかつベルトに対して働いているかの解説をちょこちょこ始めようと思います。
が、これはかなりややしいので、巷に溢れている情報等はとりあえず忘れ、頭を柔らかくして
読み進めて下さいませ。
…今回は一応「中級」ですがコレは多分「上級」コンテンツを作ってもまだ終らない予感が(以下略
※今回も死ぬ程長くてややこしい為、ページ内リンクで目次を付けておきます。
・ベルトを「引く力」と「張る力」の区別について
さて、前回はセンタースプリングの役割と、それに絡んでトルクカムの働きを少々ご説明しましたが、
あくまでメインのお話は、
「センタースプリングの反力と、それに影響されるベルトを挟む力の変化具合」
と言う事でした。
※以後、「ベルトを側面から挟む力=側圧」と表記します。
これは結果的に「ベルト側圧」という物に対しての理解を得る為のお話だったのですが、このお話をするには
センタースプリングもそれ単体では考えられない事なので、トルクカムのお話も交えましたが…
その両方の力の和、「ドリブン側ベルトに側圧を掛け、ベルトを挟む力」と言う物、これは
ベルトをたるませず、スリップも最低限度に抑える為にベルトを「張る」力になっていると言う事なんです。
これが駆動系の伝達効率やメカニズムを考えるにあたり非常に間違いやすい点で、よく駆動系の
パワー伝達力を考える時に、「WRの遠心力 VS トルクカムの効き(+センタースプリング反力)」という感じで
ドライブとドリブンの力関係をイメージする事があるかと思いますが、これはあくまで
ベルトを「張る」力をイメージしているだけ
と言う点をまず覚えておいて頂きたいです。
実際には駆動系でのパワーの伝達経緯としては、ベルトを挟む(張る)力だけをいくら考えても意味がありません。
何故かと言いますと、「ドライブ側でベルトを引く力」もあわせて考えないといけないんです。
そして「ベルトを張る」と言う動作は、「基本的には」大半がドリブン側で行われるものです。
まずここをお間違え無き様にお願いしますね。もちろん全部が全部ではありませんが。
エンジンが停止していてWRに遠心力が掛かっていない状態でもベルトはダルダルですか?って事です。
で、皆さんご存知の通り、混合気が爆発してピストンが押し下げられ、それによって得られる「力」は、直接的に
トルクカム&ドリブンフェイスを回転させている訳ではありませんよね?
そうです、駆動系ユニットのドライブ側の
「プーリーやフェイスに力が伝わり、さらにベルトを介してドリブン側へと伝わっている」
んですね。
ではここで、いつもの絵で多少ご説明しておきます。
さすがに文字だけではつらくなってきたのでやむをえません(笑
とまあ、簡単ではありますがこんな感じです。
実際にはベルトは「張られながら引かれている」ので、単純に分けて考える事は出来ないのですが
これはまず、両方を一緒くたに考えているといつまでたっても前に進めない、という私の経験から、
ある程度物事の動きと言う物を分けて考えて頂きたい、と言う事なので誤解無き様にお願いします。
(上記の絵の様に、ドライブ側はベルトを「徐々に挟んで」行かないと「変速」が出来ませんが、これが
ドライブ側で「最低限度の」ベルトを張る力になる、という点もありますので)
これが意外と、いや一番大事な事で、仕組み的には普通のバイクと同じく、クランクシャフトを回転させて得られた
力は伝達機構を介してリヤタイヤまで伝わる訳です。
が、これは通常はチェーンを介する「チェーンドライブ」であるのに対し、スクーターの場合は
「ベルトを介したベルトドライブ」といった方式になっています。
これが実は多大なパワーロスを生み出している事は事実なのですが、スクーターの場合は駆動系がきっちりと
構成されていたとしても、エンジン出力の6〜7割しか後輪に伝わっていないと言うのが実情なんです。
仮に、カタログスペックで7.2psの50ccスクーターをシャーシダイナモにかけた場合、上手い事行っても
後輪出力的には4〜4.5psもいけば上出来ですからね。
※参考までに昔の60ccフルチューンのFSクラスマシンで後輪出力15ps〜程度、
現在のSS1/32mile、08年度SAクラストップタイムマシン(はぶっくす号)で後輪出力10ps程度です。
スクーターの場合はシャーシダイナモだと上手い事測れませんが一応の参考までに。
で、何故にこんなに無段変速ベルト駆動のパワーロスがでかいのかと言いますと…
これは単純に、チェーンドライブでの駆動方式だと、スプロケの歯とチェーンとががっちり噛み合い、
エンジンパワーをほぼ無駄無く後輪まで伝えている事に対し、ベルト駆動の場合はある程度の
スリップロスがあるからこそ、駆動系でのパワーの伝達効率が無駄になってしまっているんですよ。
無段変速のスクーターの場合、ベルトには一応コグがあり、仮に相手が歯車の様な物であれば、スリップをほとんど
抑制出来るかと思いますが、実際にはコグを噛ませられる様な形状の駆動系パーツは無いのでそれは
事実上不可能と言う事になり、ベルト摺動面からの「側圧」のみでベルトを保持しないといけません。
しかしこれではベルトを横から挟んでいるだけのシステムなので、100%の伝達効率は得られないと言う事です。
アクセルを大きく開けたりエンジンのトルクが少しでも上がった場合だとベルトが滑り始めますね。
※「ベルトが滑る」とはいってもこれは実際に体感出来るモノではなく、滑ったとしてもトルクカムの作用で
ベルトの側圧はある程度保たれる物なので、明確に完全空転と言う意味ではありません。
これはちょっと難しいのですが、「回転方向へベルトが明確な空転をしている」のでは無いので、
「スリップロス」というのも「ベルトのかかり径の変化」が起こる為に必要な最低限のスリップ、と言う解釈で
お願いします。
が、これも皆さんご承知の通り、「変速」を行っていき変速比を変化させて速度を乗せて行かなければならない
無段変速の構成上、ドリブン側でベルトがぱっつんぱっつんに張られてしまう程の側圧を与えてしまうと、
WRには結構な遠心力を与えても、いつまでたっても1速状態のまんまですよね(笑
これは前回ご説明した通り、
「ドリブン側でのベルト側圧に対し、WRの遠心力が打ち勝った時点で変速が始まる」
ので、エンジンパワーや車重、走行負荷に対し、あまりにベルト側圧がオーバー気味なセッティングの場合だと、
変速を開始する、そして持続していく事に対してそれだけ「無駄な力」が必要となってしまうんです。
ドリブン側側圧が非常に強い場合、ドライブ側ではそれに打ち勝つだけの強い側圧が必要になりますからね。
なお、ドライブ側の側圧はベルトを挟む力のみならず、実際にはベルトを挟み込む方向へプーリーが
スライドする事により、外側へベルトをせり上げて変速を進め車体を加速させていく方向へ動いて
行くのも大切なポイントですね。
ドライブ側の側圧、すなわちWRで発生する遠心力は、
ベルトを挟みグリップさせるだけの働きではない
という点はお間違え無き様にお願い致しますね。
(ちなみにエンジン回転数が一定のままドライブ側側圧を増大させるには、WRの重量増やランプ&WRガイドの
傾斜角度の減少等が手法としてあります)
これは何故かと言いますとですね、先程も書きましたがベルトってのは基本的に過剰に滑っては
いけないのですが、本当は「変速を行っている途中の状態」だと、適度に滑らないと変速出来ないんですよ(笑
ドライブ側プーリーがWRで押し出されスライドしていっても、テーパー角度が付いているプーリーの
ベルト摺動面の形状があるからこそ、真横にスライドさせられているだけのプーリーで、ベルトを押し上げる
方向に動かせていますよね。
こういった場合、Vベルトにもテーパー角度はありますが、それでも摺動面に対して「せり上がろう」とする場合、
側圧が0だと完全に滑りますがその反面、ドリブン側をベルトで引っ張れるだけのグリップ力は必要ですし、
その状態でせり上がる、いやズレていくといった表現の方が良いかもしれませんが、とにかくベルトが
ドライブユニット外側に向かって「移動」する場合は、ほんのわずかにスリップしながら移動している
ハズなんです。
(これはもちろんドリブン側もしかり、ですが、ドリブンのスリップ率はドライブと比べ物にならない位大きいです)
もしもドリブン側側圧が異常に強く、ベルトが摺動面に対し100%グリップしていたとすれば、いくら
プーリーでベルトを押し、テーパー角度によってせり上げているとしてもそう簡単には動かないですから。
これはトルクカム&ドリブン皿のベルト摺動面で、「ある程度」はスリップが無いとVベルトでの変速と言う物は
不可能なんですね。
何故に「V」ベルト、なのかを考えればよく分かります(笑
なので、過剰なベルト側圧と言うものは、最低限度に必要なベルトスリップまで殺してしまいがちになり、
必要以上にグリップしているベルトをさらに滑らせる為に過剰な力を与えないと変速を進ませられない、と
言う事になるんですね。
そして「変速が進まない」=「加速していない」と言う事です。
これはWRを全部抜いてドライブ側側圧を限りなく0に近くして走行してみるとよく分かりますよ。
「変速が進行しない」という状態が一体どんな物なのかを、ね(笑
…もちろんドリブン側の過剰側圧に対応出来る様な強烈な遠心力を生む重いWR等を使うのもありといえば
ありですが、だからと言って「変速回転数」を同一にセットしても、変速過程におけるベルトスリップ具合が悪いと、
実際には全く性能向上が見られない場合もあるどころが下がる場合もあると言う事も付け加えさせて頂きますね。
これは私いつも言っていますが、「変速回転数さえパワーバンドに入っていればOK」と言う訳では無く、
「回転上昇のフィーリングに騙されず、ちゃんと前に進んでいるか」と言う事ですね。
もちろん、「変速中にエンジン回転が過度に上昇する」のなんて問題外です(笑
それと、これは最初に書きました様に、
「スリップロスがあるからこそ、駆動系でのパワーの伝達効率が無駄になってしまっている」
とも言い換えられるんですが、この適度なスリップが無いと変速そのものが出来ないので無段変速は難しい、と
言う事にもなるんですけどね(汗
とにもかくにも、前回のコンテンツにも書きました様に、トルクカムとセンタースプリング両者でのベルトへの
「側圧荷重」はノーマルでも過剰になっている事が多く、まずはノーマルパワーに対してどの程度の
ベルト側圧が必要なのかを、色々なパーツ構成を試して「自分基準」を作る事が一番なんですよ。
そしてタンデム前提の車両だと1名乗車では確実にハナから側圧過剰、と言う事も同義なんですが、
ひとつのセッティング手法としては、センタースプリングを可能な限り弱くしていってみれば良いんです。
もちろん変速回転数はWR調整にて同一に合わせた状態で試すのが絶対条件ですけどね。
(ノーマルだと標準体重の人だけが乗るとは限らないのでタンデム車でなくとも側圧にはそれなりに
余裕がある、と言う点もありますし、タンデム前提ならなおの事です)
と、走行負荷に対してベルトが極度にスリップしない程度の「ドリブン側ベルト側圧」を、トルクカムの効きと
センタースプリングの反力にて稼ぎ出していれば、走行負荷の一番大きくなる発進時でも、「ベルト側圧」は
それで十分な場合がありますし、その丁度良い力関係を見つけるのがまず大事と言う事です。
分かりやすく言いますと、側圧が過剰だとものすごいパワーを出さないと上手い事変速しませんし、なおかつ
実際の加速も悪くなる、って事ですね(笑
あ、だからといってちょっと位パワーを上げた程度でセンタースプリング即強化、ってのは大間違いなので
ご注意下さいな。
分かりやすい一例として、センタースプリングを強化してWRを重くし、変速回転数は同一のセッティングを
施したとしますよね?
この場合だと、アクセルに対するエンジン回転の反応はキビキビとしている感じになるのですが、
これは「ベルトがグリップしすぎて」、反応が良い様に錯覚している事が大多数ですから(断言
実際の加速力、再加速力等ではまともなセッティングを施した物には及ばないですからね。
…この辺りを上手く調整出来れば、仮に3YK-JOGのFP仕様とかでも、JOG-ZRですらなくJOG-Zの
ノーマルセンタースプリングでOKな程度の駆動系構成も十分作れたりします。
もちろんトルクカムが45°一直線ってのはナシですし、私に言わせればノーマルで速いと言われた3YK-ZRでも
かなりのロスがあると思いますよ。正直3YK-Zの駆動系構成の方が1ランク上の良いバランスですし、
私の知る限りでは、フルノーマルの駆動系という点に限定すれば3YK-Zは最良の構成だと思っていますし、ね。
あ、もちろんこれは「センタースプリングだけが弱め」だからって理由のみじゃ無いですよ(笑
・ベルトを「引く力」とエンジン軸トルクの関係
先程の絵にも書きましたが、チェーンの代わりにベルトにてドライブ側からドリブン側へのパワー伝達を
行っているVベルト式無段変速の場合、適度なベルト側圧にてベルトをグリップさせておいた状態で
「ベルトを引く」となれば、これは単純にエンジン…と言いますか、クランクシャフトの回転による力を
元にし、ドリブン側をベルトを使い引っ張っている訳です。
難しく考えなくとも、ドライブユニットを手で回してもドリブンユニットが回される、って事で(笑
「ベルトを引く力」なのですが、ここで一つ間違ってはならない点を。
「クランクシャフトを回し、ドリブン側を引く力」と言う物は、
思われるかもしれませんが、ドリブン側ベルト側圧を稼ぎ出す為の「トルクカムの効き」をご説明するのには
どうしてもこれを書かなければいけないので…ややこしいですが我慢してお読み下さい(汗
求められる、「単位時間あたりの仕事量」と言うのはご存知かと思います。
ここで簡単に…ライブDioZXでも一例に出しますが、ノーマルだと最大トルクが「6250rpm/0.81kg-m」 で最高出力が
「6500rpm/7.2ps」になります。
(参考までに最高出力状態での軸トルク値は、(6500rpmx0.793kg-m)/716=7.199psになっており、実トルクは
7.2psを発生している時には0.793kg-mまで低下しているはずです。が、トータル出力は最大をトルク発生する
回転数時よりも上回っているという事ですね)
ハンマー投げみたいな物で、クランクシャフトは回転運動ではありますが、1m先にくっつけた物体を振り回す力、
とでも考えて良いかと思います。
(仮にトルク値が「0.81kg-mだとすると、軸から1mの所に0.81kgの重りを付けても移動させられる」と言う事です)
「回転数(rpm)」と言うのはあくまでその軸が1分間に何回回っているかを示す数値なので、それ単体では
「力」には出来ない事は皆さんご承知の通りですね。
ハンマー投げでハンマー持たずに人間だけ高速回転しても腕の先にはパワーは出ないでしょ?(笑
お分かりかと思います。
…実は、ドライブ側プーリーはWRへの遠心力が強くなればなるほど、ベルトの側圧も高まっていく上に
その力によりベルトがせり上がる方向性の力という物も「ベルトを引く力」に関わっているのですが
またごっちゃになるのでとりあえずここでは割愛しますね。
ここでも絵を描いてみますが、下図の様な変速比を持つ駆動系構成があると仮定して下さい。
・最小ドライブ径40mm
・最大変速(最小減速)状態
・最大ドライブ径100mm
・変速比は2.5〜0.8
あ、「径」ってのは単純なベルトかかり径なので、変速比を実測したりする時にはよく使いますよね。
そして、このエンジンのクランクシャフト発生軸トルクを…「0.8kg-m」にしましょう。
ライブのノーマルエンジンって感じですが、変速比も含め現実的で分かりやすい数値と言う事で。
最小変速状態の場合、ドライブ側ベルトのかかり径は「直径40mm」となっていますよね。
ここに先程仮定した「クランク軸トルク0.8kg-m」の力がかかる訳ですが、これは軸の中心から
離れた所にベルトがかかっていますし、なおかつかかり径40oというのは「直径」になるので、
実際にクランク軸トルク0.8kg-mが、ベルトかかり径40oの点にかけられる力は…
この「1000oの50分の1」と言うのは、ベルトかかり径の半径20o点に対して、どれ位
「クランク軸トルク」が増大しているかを表しています。
あくまで「軸トルク値」と言う物は、軸から「1m(1000o)の点での力」なので、力のかかる点が
軸中心部に近づけば近づく程大きくなる訳ですね。
実際には軸中心から20oという距離では、50倍ものトルク値でベルトを引いているんですよね。
落ち込んでいますね。
「引いて回転させる」為のベルトを引く力なので、実際の「ドリブン側軸トルク値」は数十kgもある訳では
ありませんよ。
これは簡単で、減速比を考えればすぐに分かります↓
これは普通のバイクの1〜6速までの減速比変化と考え方は同じです。
最小変速状態の時には、
クランク軸で0.8kg-mのトルクが発生していると
ベルトを40kg-mの力で引き
ドリブン軸に伝わるトルクは2kg-mまで増大している
という事ですね。
暫定的に求めているのはあくまで「ベルトを引く力」なので、「ベルトを挟む力」である側圧とはある程度
割り切って考えられる事が出来ます。
…まーた某掲示板とかで突っ込まれそうですが、私が言いたいのは…仮に何かの駆動系パーツを交換して
ベルトを「張る力」をいくら増大させたとしても、ベルトを「引く力」が向上するとは思えないでしょう?と言う事ですね。
いくらベルトの「側圧」を強化しようが、ベルトを「引く力」すなわち「駆動力」に対しては
ある一定の値より向上が見られる訳が無い
のです。
さっきも書きましたが、ドライブ&ドリブン共にベルトスリップ率が完全に0になる程の強烈な側圧をかけてやれば
駆動力自体は上がった様になりますが、それじゃ1oも変速が行えませんから(笑
変速比が増減すると「ドリブン側軸トルク値の変化」は起こりえますが、それに対して必要以上にベルトを
ぱっつぱつに張ってしまう方向へセッティングを振ったとしても、走行負荷の高い発進時の一瞬のみならば
ともかく、それ以後の加速側変速中のメリットは全く無いと言う事に繋がります。
走行負荷は同じでも強い力でトルクカムが引かれ、余計にベルト側圧が強くなる
ので、WRを重くしてより強い遠心力を稼がないと今までと同じ変速が行えないという症状もありますからね。
スプリングの「効き」によるベルト側圧は…今までより弱めてやらなければならない場合もあるんです。
こうは行きませんが、そんな激変なんて普通のチューニングで起こそうと思ってもかなり難しいですからね(笑
回転数×トルク値の「出力」を上げるのは簡単ですが、クランク一回転での力である「トルク」を大幅に上げるのは
なかなか難しいですし。仮に排気量を2倍にしたからといっても「トルク」まで2倍にはなかなかなりません。
アドレスV100でもカタログスペックだとリード1kg-mでグランドアクシス&V100で1.1kg-m程度ですし。
そもそもドライブ側はともかくドリブン側でベルトが空転しようとしても…これは次の項目でご説明する絵の通りの
働きが起こるので、ドリブン側ベルト完全空転ってやろうと思っても無理ですよ。
冗談ではなくトルクカム引き千切る勢いが必要です。
ノーマルなLVより強いセンタースプリング等が必要になった事すらありませんしね。
Gアクや2種リード系はさほど詳しくありませんが、それでも「元」を考えると簡単には要らないと断言しても
良いですよ。
頑張って私の理論をお読み頂けた方にはご理解頂けると信じています。
なのでやはり、ボアアップしたりチャンバー付けたりしたらセンタースプリング強化とかきっつい溝角度の
トルクカム投入とかってのは、パワーを無駄遣いし駆動系の耐久性を貶めるだけの愚策の極みとしか
言えないのですよ…
・加速時のドリブン側ベルトの「スリップ」という動き
私、「ベルトは変速中に適度に滑っている」と書きましたが、これがどういった物なのかを
軽くご説明しておきますね。
これは皆さんご覧の通り、「WRの遠心力においてドライブ側ベルトがせり上げられ、逆にドリブン側の
ベルトが中心に向かって引き込まれていく」と言う事ですね。
この状態においても、ベルト側圧が100%の力でかかり、スリップ率が完全に0である場合だと、
ベルトの移動そのものが行われずに変速自体が成立しません。
なので、加速側変速の状態では、ドリブン側ベルト摺動面の2枚のお皿、トルクカム皿とドリブン皿は
「これが均等で無いと、変速自体が進行して行かない」と言うのが、変速進行が可能なベルトスリップ率とも
言うべきモノになります。
また絵を書きますが…
その前にまず「ベルト側圧」と言う物は、A皿からもB皿からも均等にかかっていると言う事が大前提です。
これは片押しキャリパーと同じで、ピストンは片方のパッドしか押していないのに、実際にディスクを挟む力は
両側均等にかかっていますよね。と言うかかかっていないとブレーキとしてヤバいですが(笑
これと同じで、ベルトは片側からトルクカムとセンタースプリングで押されている様に見えても、実際には
ベルトの両側へかかる側圧は確実に均等になっている、と言う事をお忘れなく。
(「側圧」はベルト両側面共に対し同等でも、実際の「グリップ力」は皿の材質や熱による摩擦係数変化にて
変化してしまいますが、これは具体的な説明が不可能なのでスルーします…)
ドライブ側でベルトを「引く力」は変わらないので、物理的にベルトに対して滑るしか無いんですよ。
となれば、A皿であるトルクカムも一緒に滑りたいモンですが、これはトルクカム溝というシステムがあるので
A皿とベルトのグリップはある程度保ったまま回転するという方向性になるのです。
トルクカムピンに角度の付いた溝が押し付けられ、トルクカム本体が狭(せば)まっていく方向へ動くんですよ。
これこそが、私がいつも言っているトルクカムの効きであり、「キックダウン」とも言うんですけどね(爆
言え、そうやすやすとは回転しません。(閉じません、と言うべきかな)
が、上り坂等でじわじわと負荷がかかった場合等は、この様なトルクカムの動きが少しずつ起こっていき、
今まで走行していた変速回転数で坂を上れる変速比(減速比)が得られるまで
徐々に駆動系のシフトダウンが起こる
(※もちろんアクセル開度は変えずに=クランクの軸トルク変化を起こさずに坂に差し掛かった場合です)
行われないままのハイギヤード状態の場合だと、上り坂での走行負荷にエンジンパワーが負けてしまい
エンジン回転数がどんどん落ちてしまって…下手すると最後には止まるかもしれませんよね。
これが、上り坂でも変速回転数が過剰に上がらないというトルクカムシステムの素晴らしい一面でもあります。
かかるのではなく、一気に大きな力が「A、B両側の皿を引く」のですが、こうなった場合でも上記と理屈は同じです。
これも先程の「走行負荷」と同じで、ベルトを引く力を増やしてやれば、A皿とB皿でのスリップ率の違いが生まれ、
トルクカムを効かせる方向に働き、駆動系はシフトダウンせざるを得ない、と言う事です。
トルクカムって本当に偉大なんですよ(笑
している」という件は、実はクラッチイン〜ミートまでの変速状態も絡んでくるのですが、クラッチが完全に
ミートし、変速(=加速)が開始されてからは両側の皿共に均等なスリップ率になり、トルクカムがガツンと効かずに
走行負荷で発生するトルクカムの効きとセンタースプリング反力に対し、WRの遠心力が勝って行くという状態に
なっている、「100%理想的な状態で変速進行が行われている状態」って事です。
(※「動力の伝達効率」は100%ではありませんよ)
…とはいってもクラッチイン〜ミートまでの動きはちと理解しにくいので、これは次のコーナーでご解説しますね。
では、ここからは先程の「ベルトを張る力」に対し、ベルトを引く力と言う物についてご説明しましょう。
単純に、ピストン下降によるクランクシャフト回転のパワーをドリブン側に対して伝えているというのが
「トルク(kg-m)」であって「出力(ps)」ではない
と言う点です。
これはですね…クランク軸出力でベルトを引くのであれば一般的に言われる「出力(ps)」だろう?って
まず、ここを読まれている方であれば「出力(ps)」の値は「回転数(rpm)」×「トルク(kg-m)」といった計算で
この「トルク値」と言うのは、「回転軸から1m離れた所の○kgの物体を移動させられる力」ですから、
なので、物理的に「ベルトを引く力」と言う物は、「クランク軸回転数」ではなくて「クランク軸トルク」と言う事が
では、ここでその「ドライブがドリブンをベルトで「引く力」と言う物がどんな物なのかをご説明します。
と、とりあえずですが一般的な駆動系構成として、
・最小変速(最大減速)状態
・最大ドリブン径100mm
・最小ドリブン径80mm
といった感じです。非ZXのDioやJOGと同じ位の変速比になってますが(笑
ではまず、「クランクシャフトのトルクがベルトを引く力」と言う物の力のかかり方として、
ベルトかかり半径20oの点:1000oの50分の1の所なので0.8(kg-m)x50倍=40kg-m
そして最大変速時、ドライブ側ベルトかかり径が100oまで大きくなった場合だと、
ベルトかかり半径50oの点:1000oの20分の1の所なので0.8(kg-m)x20倍=16kg-m
また絵に書いておきますがこんな感じです↓
最小変速時にはドライブ側ベルトでドリブンを引く力は40kg-mで、最大変速時だとわずか16kg-mまで
ちなみに、これはあくまでテーパー状の摺動面に張り付いている状態のベルトで、ドリブンユニットを
と、参考までに軸〜軸までの変速によるトルク値伝達変化の違いと言う事で。
あ、これはもちろん、ベルトが側圧により100%グリップしているという事が大前提ですが、ここで
なので、
そしてこの「一定の値」と言うのが、「適度にベルトがスリップしつつグリップしている最適な状態」となります。
そして、エンジンの「トルク」を上げてベルトを引く力を強くした場合でも、それに伴って
もしも、エンジンのトルクが上がってトルクカムの効きが強烈に「なってしまった」場合、トルクカムやセンター
さすがにベルト自体が一気に空転する程の、今までの数倍のトルクUPとでもなれば逆に側圧が足らなくなり
2st125系のレプリカやOFF車ならともかく、1種と比べて分かりやすく排気量が倍のリードの100やグランドアクシス、
で、私の経験上では、JOGの50を90ccでハイチューンしようが、Dioの50を88ccでハイチューンしようが、
…これもまた世間の風潮と言うか一般チューニング論(?)を根底から覆す様な理屈ですが、ここまで
さて、ここで閑話休題としますが…
まず、一番簡単な加速側変速において、ですが…
ベルトに対して両側共に均等なスリップをしている
と言う状態になっているんですね。
仮に、このグリップ力が双方のお皿で違ってしまった場合はどうなるかと言いますと、分かりやすく
こんな感じですが…
で、図中リヤタイヤ直結のB皿は、仮に走行抵抗による負荷がかかってしまった場合でも、だからといって
そうすると…A皿のトルクカムがB皿を置き去りにして前方へベルトごと回転する方向へ動いた場合、
もちろんトルクカムA皿自体は、トルクカムピンと溝角度による抵抗があるので、いくらベルトに引っ張られるとは
逆に、ドライブとドリブンでのベルトかかり径が平地と同じで、上り坂でのキックダウンによるベルトの移動が
そしてもう一つ、加速中に急激にアクセルを開けた場合だと、坂道の様にじわじわとした負荷が両方の皿に
ちょっと注釈を多めに付けましたが、これでお分かりでしょうか?
ちなみに最初に言いました「加速側変速の状態では、ベルトに対して(A&B皿)両側共に均等なスリップを