排気ポートタイミングと排気流速について



※注意!

この理論は現在私が考え方を変えている為、以前の理論としてお読み下さいませ。

このコンテンツを初めて読まれる方は順番にお読み頂きたく思いますが、読まれた事のある方は直接新理論の追記の方へどうぞ↓

新しい理論へ飛ぶ



さてさて…今回のこのコーナーは、かなり一般的には分かりにくい所かと思われる、排気タイミングについて語りたいと思います。

ここで言う「排気タイミング」とは、排気ポート上端の高さ…つまり一般的に言われる「排気ポート」が「燃焼済みガスを排気」するタイミングですね(笑

…そのまんまですが、コレが2stエンジンにおいては、エンジンのパワーバンドや回転特性を決める最大のファクターとなりますので。


あくまで一般的に、排気ポートを上げる(排気タイミングを早くする)とパワーバンドが高回転側に移行すると言うのが定説ですね。

私何度か掲示板でも言ってきましたが、これは簡潔に申しますと、「排気ガスの流速」を上げる事により、基本的にはチャンバーとの同調がより高回転側で行える、と言う事になります。


「チャンバーとの同調」というモノは…チャンバーの役割としては、末端部で跳ね返ってきた「反射波」により、未燃焼混合気がシリンダーに押し戻され、2次圧縮時の充填効率を高めていると言う事です。

これは基本的にはチャンバーボディ本体が長ければ長い程、末端まで正圧波が届くのに時間がかかるので、ピストンスピードのあまり高くない回転域で丁度良い場合が多いですね。

排圧がかかるまでがゆっくり=反射波が帰ってくるまで時間がかかる=それに見合ったピストンスピード、と言う事です。

(捕捉ですが、チャンバー全長が長くとも高回転型の物は存在します。上記はあくまで基本としての一例とお考え下さいませ)


すなわち、物理的にピストンスピードが速くなる高回転域では、


速くなったピストンスピードに合わせて

「高速で」正圧波をチャンバー末端まで送らなければならない

=「排気流速」を高めるべき


と言う事になりますね。

そうしないと、チャンバーのコンバーコーン末端で跳ね返ってくる「反射波」も高速化する事は出来ませんからね。


…これはなかなか上手い事ご説明出来ませんが、チャンバーの基本的な役割と、2stならではの「カデナシー効果」をお勉強して下さいませ(汗



次にそのチャンバーについての捕捉ですが、これは「長い」「短い」と言っても一概には数値で決められる物では無いんですよ。

「このエンジンには10000rpmでパワーバンドになる寸法」というモノを決め、そこからチャンバー全長等を考慮して決めていく物なんですね。

…一応チャンバー全長の測り方、と言う物も存在するのですが、企業秘密ですのでそれはまたの機会に(汗

ちなみに「チャンバー全長」というモノは、基本的にエキパイ口部分〜コンバーコーン末端までの長さとなります。

この長さが、パワーバンド回転数を決める最大のファクターになっていると私は思っていますよ。

(もちろん要因はそれだけではありませんが…)




ではこの辺で本題へ(笑

表題通り、一般的には排気タイミングを速めるとパワーバンドも高回転側に移行します。

それは何故か、と言いますと…


まず、「排気ポートを上げる」と、2次圧縮が行われピストンが下降し排気ポートが開くまでの時間が短くなりますね。

ピストン上死点で2次圧縮された混合気は点火により爆発→燃焼し、燃焼済みの排気ガスとなりますが、それが排気ポートが開く瞬間までのわずかな時間には


ヘッド内部やシリンダー壁面に対し、自らが持つ「熱」を放熱しながら

排気ポートが開いて排気されるのを待っている


という事なんです。

すなわち、「排気ポートが開くまでの時間に排気ガスはどの位の温度になるか」によって、「排気流速」という物はほぼ決定されるのです。


排気ポートが開いた瞬間には、一気にブローダウンが起こりチャンバー末端へ向かって排気ガスは流れる物ですね。

ここで大事なのは、排気ガスという物は、温度が高くなればなるほどブローダウン時の流速が高く(速く)なると言う事です。

…これは物理的な問題なので理由とかはご勘弁をば(笑


ですので、


排気ポートを高くする=排気ガスがシリンダー内にあまり放熱を行わないまま排気される

=排気流速が高くなり、ピストンスピードの高い高回転時でのチャンバーとの同調が「取りやすくなる」

と言う事ですね。



排気タイミングと放熱時間
いつもの下手絵ですが、こんな感じです。

図にすると良く分かるかと思いますが、上死点から排気ポート「開き始め」までのピストンストロークが短くなると言う事ですね。

これは他の所を換えずに排気タイミングのみ速くした場合ですが、一般的に言われている弊害、「2次圧縮比のダウン」も同時に起こりますが…

もちろんそれも補正は必要ですね。



と、これで何故排気タイミングを上げるとパワーバンドが高回転側に移行するのかお分かり頂けたかと思います。

ここで一つ捕捉ですが…


仮にノーマルマフラーの様なある程度低回転でパワーが出る設計のチャンバーの場合、こういった排気ポートUPの加工を施しても、あまり意味があるとは言えません。

何故かと言いますと…ノーマルマフラーの様にエキパイが細く、なおかつコンバーコーン末端までの「距離が長く経路が複雑」な物ですと、排気流速そのものをシリンダー側で速くしてやっても、コンバーコーンまでにその排気流速を維持しきれないからなんです。

もちろん「ある程度」効果がある事は私も実証していますが、それでも排気タイミングの数値で表すと、1mm程度のUPが限界でしょう。


排気温度の関係で排気流速そのものは上がるので、最高回転数自体は上げることが可能ですが、そこの「上がった回転数」で、チャンバーとの同調が取れるかといえばはなはだ疑問ですよ?

「回転数さえ現状より上がればパワーが出る」というモノではありませんので。


逆に、ノーマルポートタイミングのシリンダーに「高回転型」のチャンバーを装着するともちろん回転数もUPしパワーバンドも上昇しますよね?

これは、排気流速だけの問題で物を言いますと、


排気流速を高められる方向性のテーパー形状になっているエキパイや部屋の無い膨張室があり、

なおかつコンバーコーンまでの距離を短く取っているからこそ


なんですね。

要は排気タイミングのUPで排気ガスを高温&高速化しているのではなく、「チャンバーの形状そのものによって排気ガスの流速を高めている」と言う事です。

(これを「チャンバーで排気を引っ張る」と表現します)


ですのでこういった場合ですと、「基本的に排気温度を変えずに排気流速をUPさせている」ので、ジェットを変更する必要は無いんですよ。

…これは大変重要な事なのでちょっと脱線させて頂きますが(笑



ここでちょっと他のお話に。

ひとつ、先程の「排気流速」のお話と大変密接に関係がある物をご説明しておきましょう。

それは「混合気のA/F比(空燃比)」です。


これも一般的に、「焼きつかない程度にジェットを薄めにすれば高回転のオーバーレブが伸びる」と言う事があります。

コレ、何故こうなるのかと言えば、懸命な読者の方々はもうお気づきかと思いますが、

空燃比が薄め=理想のA/F比より燃焼温度が高い=排気流速も自然と高くなる

こういう事なんですよ。


元々の「ヘッドでの燃焼温度」が高めでも、排気ポート高さがフレキシブルに変わらない限りは、排気タイミングは同じですよね?

なので「排気ガスのシリンダーへの放熱時間」が同じと言う事になるので、排気ポートより排出される瞬間の排気ガスは高温になる=排気流速が上がる訳です。

(※くどい様ですが、だからといって現在使っているチャンバーとの同調が取れるかと言う事とは別問題です)


とまあ、薄めのセットというモノはこういった傾向が多いかと思いますが…

もうひとつ、良くチャンバーメーカー指定で 「チャンバー装着時にはMJを1ランク上げて下さい」 というモノがありますよね??

これ、先程の排気流速との関係で言うと何かおかしいと思いませんか?


チャンバーそのものは「ノーマルの排気タイミングに合わせた上での」高回転型設計になっているのですが…

これでジェットを上げてしまうと、物理的な排気温度が変わらないのに、空燃比を濃くして排気流速を下げてしまう事になります。

これではせっかく高回転型の排気の引っ張りと充填効率、そして排気流速を稼ぐ為のチャンバーなのに逆効果です。


コレ、私がいつも言っている「安全マージン」だと思うんですね。

本来、チャンバーの引っ張り効果によって排気流速が上がるとそれなりにシリンダー温度も上昇するハズですが、燃焼の大元である「ヘッド内」の温度はそれほどには変わらないです。

それなのに、吸気側で空燃比を濃くしてしまっては燃焼温度の低下を招くだけですが…それはエンジンが回り過ぎない様に、という配慮としての指定だと思っていますよ。

(もちろん高回転化によるエンジンそのものの冷却の為、という見方も出来ますが)

少なくとも、ノーマルにチャンバーのみ装着のエンジン位だと、チャンバーの能力で高回転型になったエンジンに対して極端にジェットが大きくなる、と言う事はまずありえません。

「ノーマルよりジェットを上げて燃焼温度を下げなければならないチャンバー」という物があったとすれば、それは確実にノーマルと同程度のパワーバンド回転数にしかならないでしょうね。


すなわち、「冷却の為にジェットを上げる」なんていうのは本末転倒も良い所で、冷却効率を上げるのならばオイルの調整や冷却風の増大、水冷化、プラグの番手UP等…そういった物が基本と言う事です。

パワーを出したいのなら、空燃比は常に理想の状態に保つべきであって、誤魔化しの「濃い目のジェッティングによる不完全燃焼による冷却」等はどうかと思いますよ?

…一般的な「焼き付き」だと、燃焼温度が高すぎて焼き付くのでは無く、空燃比的にジェットを濃い目に振っていても冷却が足りなくて焼き付く場合がほとんどですが。


ちなみに私のライトチューン車のひとつ、FPもどき仕様のJOG-Z、ZRフルノーマルエンジンにチャンバーのみ装着ですが…

これでMJは82もしくは85、プラグは9〜10番で混合比が50:1といった所です。

WRは計21g前後ですのでそれなりの高回転型ではありますが、MJが90番を超える事はほとんど無いですね。



と、この辺で話を元に戻しまして。

「排気流速」に関してはおおむねご理解頂けたかと思います。

次に、「排気温度とジェットの関係性」についてご説明致しましょう。


上でも少し触れましたが、排気流速はヘッド内の燃焼温度がどの程度「放熱」されるかによっても変わってきますね?

これ、もちろんジェッティングによっても左右されます。

…一般的には、「高回転型のエンジン特性になるとジェットは上がる傾向」と言う風に取られているフシもありますが、これは正しくありません。

どちらかと言うと、「ハイチューンエンジンであっても、高い回転数を使用するのなら思ったほどジェットは上がらない」というのが正確ですね。


何故そうなるのかと言いますと…ひとつ例えを出しましょう。

現在、「10000rpmでパワーバンドに入るチャンバーとエンジン」があると仮定します。

この状態でMJは150番としますね。

このエンジンを…チャンバーのみ、「12000rpmでパワーバンド」の物に変更したとします。

すると…ジェットは150番を上回るどころか、逆に下がっていく方向性になるのが正しいんですよ。


これは、「現在より上の回転数」でチャンバーとの同調が取れるエンジンとなる為、チャンバーの高回転での引っ張り効果の増大により、排気流速はさらに高まっていますね?

その排気流速に「見合った燃焼温度」を作り出してやらやければならないからなんですね。


すなわち、

10000rpmでチャンバーとの同調が取れる排気流速よりも速い排気流速が必要=

燃焼温度を現状よりも「ある程度」高めてやり、排気流速を上げてやる事が必要

と言う事になりますね。


もちろんそれで焼き付かないのか、と思われる方もいらっしゃると思いますが。

…ここでちょっと考えてみて下さい。

排気ポート位置を変えずヘッド内の燃焼温度が増大すると、当然シリンダー等への熱の影響も強くなります。

(排気ポートから排気ガスがブローダウンされるまでは、ですが)

ですが「排気流速が上がった」と言う事は、「燃焼室から抜けるブローダウン排気の勢いも速くなる」と言う事です。


ですので、少々ヘッド内の燃焼温度が上がったとしても、ブローダウン開始時の排気流速のUPと、より高回転型になったエンジンで高速化したピストンスピードによって、排気ガス自体がシリンダー内に留まる時間も短くなり…

異常に熱を持ってシリンダーが焼きつく程には、シリンダー内の温度は上がらないんですね。

これが、「高回転型になったからといってジェットは上がらない」という理由です。

※といいましても、現状の排気温度&流速のバランスを超える位ジェットを小さくしてしまっては焼き付きますが…


そしてここで最も大事なのは、

「排気流速を上げる為にジェットを絞る」のでは無く、「排気流速が上がったからジェットを絞らざるを得ない」

と言う事ですが…これを勘違いしてはいけません。


一番上でご説明しているのは「ノーマルポートのエンジンに対して、排気流速を上げてやる為の設計のチャンバー」の「基本的」なお話です。

こういった「基本的に排気温度を変えず、流速を高める」程度の設計のチャンバーでは、上の基本理念も通用しますが…

他の箇所を色々とチューンして初めてパワーを発揮するチャンバーだと、ここでご説明している様に、もうそんな基本的な理論は当てはまらないと思って下さいませ。


基本的にメーカーさんが開発されているチャンバーは、「ノーマルの排気タイミングと燃焼温度」に合わせて設計がなされている物です。

なのでジェットの上下があまり無くともパワーバンド回転数をある程度は調整出来るのですが…「本物」のチャンバーだとまずそんなに上手くは行きませんよ?

逆に言いますと、「チャンバーをくっつけただけでにっちさっちも行かなくなる位」の特性の激変があるのが、チャンバーらしいチャンバーだと私は思っていますよ。

(これはポン付けではパワーバンドに入らない、と言う次元の問題では無く、エンジンの回転すら上げられない&走行すら出来ない、といった感じです)


ちなみに私の経験上だと…そうですね。11000rpmちょいのパワーバンドを持ったチャンバーでMJは160番前後、と言う状態がありました。

その状態で、ポートタイミング等を一切変えずにチャンバーのみを13000rpmオーバーのパワーバンドの物に変更した所、MJは140番まで下がりましたよ。

もちろんジェットを換えずにポンでチャンバーのみ装着した場合だと、レーシングしてもまともにエンジンは回せませんでした。

といいますか一瞬でプラグがカブって死にましたけれどね(笑


…これは結構極端な例ですが、キャブがケイヒンではなくミクニだったりすると、ジェットの「数値」での上下はこんなものでは無かったりしますよ?

50ccノーマルポートでMJ180番、50cc+チャンバーでMJ230番、70cc&排気タイミング3mmUPでMJ300番、といった経験もありますのでね。

この辺りが、私が基本理念としている

「ジェットの番数に固定観念を持たない」

と言う事ですね。


これはとても大事な事ですが、少しでも「おかしな概念」や「間違った認識」があると、とたんにジェッテイングというモノは上手く行かなくなりますのでお気を付け下さい。

ハイチューンになればなるほど、ジェットという物は「濃い&薄い」で判別するものでは無くなって来ます。

多少濃いだの薄いだのという「その程度」の症状は、意識せずとも補正出来る位のスキルが必要になる場合もありますからね?

「燃焼温度」をコントロールするのがジェッティングではありますが、それは混合気の燃焼&冷却効率うんぬんを気にして、エンジンが焼き付かないかどうか、と言う事を決定する物では無いと言う事なんですね〜。

この辺り、一般的なジェット番手の認識とは全く違った物になりますのでかなり難しい所ではありますが、「濃い&薄い」でジェットの番手を表すのは間違いが多いので良くない、と言う事も付け加えておきます。

(番手が大きい&小さい、といった概念の方がトータルで理解しやすいです)




さてさて。とりあえずこの辺りで一区切りつけましょうか。

いつも通り長くなってしまいましたが…今回はご説明しづらい上に、見えない物なので絵も描けず…非常に分かりにくい内容となってしまいましたがご容赦下さいませ。

しかし2stエンジンの基本理念を分かっておられる方には、こんな文面でも私の言わんとすべき事がお伝え出来ると信じております(汗

「一般的な知識&理論では分からない所」をご説明するのが私のスタンスですので、是非繰り返しお読み頂きたく思っていますよ。


最後に簡単にまとめますと…排気タイミング。色々な手法があるチューニングの一つですが、実際には…

現在のエンジン+チャンバーに対し、排気タイミングを数mmも上げてみて意味はあるのか、チャンバーとの兼ね合いはどうなのか。

ポートタイミングを変えないのなら排気ポートを広げたほうが良いが、それをちゃんと抜けるだけのエキパイの太さと形状ははあるのか。

「薄く」して回転数を上げるのは良いが、それで本当にパワーは出せるのか。

こういった色々な所をちゃんと分析出来ない限りは、「排気タイミングの変更」なんてやるものではない、と言う事です。

何をどう加工して、結果どうなったかを理論で分からない様な排気タイミングの変更など、現状より良くなる事なんてまずありえませんのでね…


所詮、といってはいけませんが…普通に「ノーマルシリンダー」に合わせて設計されているチャンバーをおいしく使おうとするのなら、ポートタイミングをコンマ5mm単位で変更した上で全てのデータを取って行く位の気合が必要ですね(笑

良い機会ですのでチャンバーの限界性能についても少々申し上げておきますが、こういう風に色々とエンジン側で調整を行っても、パワーが出ないチャンバーというモノはごまんと存在します。

なのでそういうモノは「セッティングが出ない」のでは無く、「それが限界」なんです。

バッチリパワーバンドで発進、変速させ、伸びきりも稼げても、それでもノーマルに毛が生えた位の性能しか無いのなら、それは「ダメ」な物だと割り切ることも必要ですよ。

モアパワーや補正の目的でポートタイミングの変更を行うのも手段ではありますが、そこまで自由度のある市販チャンバーというモノもなかなか存在しませんからね…


ではでは。

次回は…この続編としまして、「排気ポートタイミングと点火時期」についてのお話をしたい…と思う予定が未定ですが(汗

これも燃焼温度や排気流速に深く関わって来る物ですから、出来る限りご説明したいと思います。


…実はこれ書くのにもかなり時間がかかってますので、次回更新はかなり先の予感(略



2006.8.8追記・新しい理論


長ったらしい文章に追記で申し訳ありませんが…

このコンテンツ内の理論ですが、実はさる方から理論の矛盾点をご指摘頂きまして。

私も色々と考えたのですが、どうやら上記の理論は間違っている可能性が高いという結論になりましたので…

残念ですが真理の追究の為に追記と言う形で個人的な新しい理論を書き連ねさせて頂きますね。



ではまず、以下でご説明する理論の過程では

○チャンバーの長さは一定

○「ブローダウン後の」排気温度による排気流速の変化はほとんど無い←これが根本的な相違点です

○「クランク角度による排気タイミングのみの変更」のみ施工

と、エンジン仕様を仮定します。


まず、チャンバーの長さが一定だと仮定すると、排気(正圧派)が排気ポートから出てコンバーコーン末端から

反射派が帰ってくる距離&時間は同じになります。

そこで同一条件で排気タイミングが早くなる(上がる)と…

シリンダー内からは排気ガスはクランク角度的には「早いタイミング」で排出され、チャンバー末端まで

届き、反射派がシリンダーまで帰ってくるタイミングも早くなりますね。


※反射派がシリンダーから抜けてしまった新気をシリンダー内へ完全に押し戻す理想のタイミングと言う物は、

ピストンが下死点より上昇し、掃気ポートが閉まる瞬間のはず。

なのでこの理論で大事になってくるのはこの時点での「ピストンスピード」です。


すなわち、ノーマル排気タイミングの状態では掃気ポートが閉まる瞬間にチャンバーからの反射派が戻ってきて

シリンダー内への混合気の充填効率が最大になる(=パワーバンド)場合でも、

排気タイミングが早くなっていると、ノーマルより早期にチャンバー内へブローダウンした排気(正圧派)が

コンバーコーンで反射し戻ってくるタイミングまで早くなってしまうと。


と言う事は、ピストンスピードがノーマルと同等ならば、上昇中のピストンが掃気ポートを塞ぎきる前に

初期の掃気工程で排気ポートへ吹き抜けた「新気」がシリンダー内へ戻されてしまい…

結果として掃気ポートから最終的に掃気中の新気までもケース側に押し戻す形になってしまい、

パワーの落ち込みも発生する事になります。

(これが一般的に言われているパワーバンドの「谷」にもなりえるはずですね)

注:「新気=掃気されつつあるクランクケースからの混合気」です。


なのでここでパワーバンドの変遷に影響を及ぼすのが前述しました「ピストンスピード」です。

上記の様に「掃気ポートが閉まらない内に反射派がシリンダー内へ戻ってしまう」状況だと、

「早く戻って来てしまう反射派」に対して「理想の掃気ポートが閉じる瞬間」となるのは


「早く帰ってきた反射派に合った掃気ポートの閉まるタイミング、

=ノーマルよりも速いピストンスピード」


が必要となりますね。


「排気タイミングを早める事により、早く帰って来てしまう反射派に合わせて掃気ポートを上手く閉じるには

ピストンスピードが上がる必要がある=ノーマルよりも高回転側でシリンダー内の充填効率が最大となり、

パワーバンドが高回転側に移行する」

となります。

もちろん、エンジンが高回転になればなるほどピストンスピードが上がるのは基本ですね。


考え直してみれば何の事は無い、結構物理的な考え方で説明出来る物なんですねコレって。

こちらの方が以前の理論よりも分かりやすいかと思いますよ。

チャンバーが同一であれば、排気タイミングを早める事により「反射派の帰ってくるタイミングがずれる」だけなんですね。


そして以前の説と決定的に違う点は、

「排気(正圧派)そのものは、温度変化で流速が変わる程には外部の影響を受けていない」

という所です。

もしくは、温度変化はあれど流速が極端に変わる程では無い、かとも…

「燃焼温度による排気温度の変化」は、ヘッド内燃焼からブローダウンの瞬間の時点までは

以前の理論も成立するかと思いますが、音速を持つ正圧派の速度自体は外気にさらされたとしても

ほぼ変化無しかと思われます。

…もしも排気温度(チャンバー内を通る排気ガスの温度)そのものが他所の影響によって極端に変化するならば、

外気温の変化やエキパイにグラスウールとかだと無茶苦茶にパワーバンドが変化しないとおかしいですからね。


しかしヘッド内での点火時期と燃焼温度&廃熱の相互関係は確実に存在する事は間違い無いかと。

「排気」ではなく火炎伝播速度そのものに対しては、燃焼温度による速度の違いがあるはずですね。

実はこれがいずれご説明しようと思っていた「排気タイミングと燃焼温度」なのですが…

これはまだ仮説ですが、私は上記の説の様に排気温度ではなくヘッド内の燃焼温度だと、温度変化は結構な影響力があると思っています。

要は、ヘッド内だとヘッド等への混合気燃焼時の熱の放熱具合で火炎伝播速度が変化している上に、

排気タイミングの変化や点火時期そのものの変化で「燃焼済みガスの放熱時間」が変わってくる、と言う事です。

と、これは別の項目でも少しご説明していますが、詳しくはまたの講釈で…



以上、以前の説をほぼ全否定してしまう新理論となりますが…私もかなり考えましたがこの理論の方が

まず間違い無いかと思っております。

…以前の説で色々と議論して下さった方々には申し訳ありませんが、この説に対しても色々とご意見を下さると嬉しいですよ。

以前の説も考え方の一つとして残しておきますので、皆様の参考になれば幸いです。



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