基本的なFNマシン作りのコツ


さて、ここからはFNクラスに出場する為のマシン作りを解説していきたいと思います。

前述のレギュレーション以外は改造、変更等が行えませんので、ポイントのみを簡単に解説してみます。

しかし大前提として、FNクラスのマシンの場合「チリも積もれば山となる」という感覚ですので、「コレをやれば速くなる」という方法はありませんのであしからず…



基本的なFNマシン作りのコツ 車体編


まず車体です。

レーシングマシンを作るのですから、基本的には新車に近くてフレームやカウルがしっかりしたベース車両が必要です。
もっとくだけた言い方をしますと、「エンジンや駆動系はどうせ変更するので関係ない」という事ですが。

厳密に言いますと、「クランクケースの当たり外れ」も影響しますが、これは「良い物が手に入れば」載せかえれば良いです。

そして保安部品を外したり不要ハーネスをカットしたりする訳ですが、ここで注意したいのが先程のフレームやカウルです。

フレームはともかく、なぜカウルが重要なのかと言いますと…


まずレースというものは、ライダーが車両の状態、路面の状態、タイヤの状態等を常に正確に把握しなければなりません。
ということは、マン・マシン・インターフェイスが重要になってくる訳です。
すなわち、「マシンの挙動、エンジンの調子等を感じ取りやすくする」という事です。

具体的には、カウルの立て付けが悪い場合「ビビリ音」が発生しますね。
そのような時に、エンジン音の静かなFNマシンのエンジン音を聞き取ろうとしても聞き取りにくい訳です。
これではエンジンの調子がつかみにくいです。

また、「コーナーでマシンがよれる」という現象が起きたとします。
ここでステップボードあたりの立て付けが悪い場合、「ステップがグニャグニャ」して踏ん張れていないのか、「リヤサスやフレームがよじれて」いるのか 分かりにくくなってしまいます。

私は、ステップボードの裏側にゴムをかませたり、カウルとフレームが当たる所にはスポンジをかませています。
ハーネス、ワイヤー類も極力フレームに縛り付けたりして「遊ばない」ようにしています。
サイドカバー等の立て付けが悪い場所はタイラップでガチガチに固定しています。

私のDioのステップ廻りです


Dioのステップ廻りです。

へこんだりヨレたりしないように工夫しています。

ハーネス等もまとめてあります。

カウルがはまりにくくなる弊害もありますが(笑

(画像をクリックすると拡大します。)



たったこれだけの事ですが、見違えるほど「カッチリした乗り味」のマシンになります。

車で言うボディ剛性と同じですね。スクーターの場合「カウル」がボディ剛性に大きく影響する訳です。



基本的なFNマシン作りのコツ フロント足廻り&ブレーキ編


では次に足廻りです。

基本は、フォークやフレームが「少しも曲がっていない」事です。

自分のマシンだと、意外とどこかか曲がっていたりしても気付かないものです。
人のマシンに乗ってみる事、自分のマシンに他人に乗ってもらう事も大事だと思います。


フロント廻りに関しては、きちんと組めていればまず大丈夫です。
三つ又上部のステムナットの閉め込みすぎでハンドルが切れ込みにくくないか、アクスルシャフトの締め込みすぎでホイールの抵抗になっていないか、等ですね。

フロントブレーキ廻りのオイルシール、マスターシリンダーピストン、キャリパーピストン、ディスクローターの磨耗等も注意が必要です。
Dioのキャリパーは片押しピストンなので、特にマメなメンテナンスが必要です。

意外と見落としやすいのが、Dioの「キャリパーブラケット」です。
この部分はキャリパーがスライドする部分なので、ここがグリスアップされていないとブレーキを引きずってしまいますよ。

Dioのキャリパーです



少し見づらいですが、矢印の部分を

バラしてシリコングリスを入れます。

(画像をクリックすると拡大します。)


リヤブレーキ廻りはワイヤーのグリスアップ、リヤブレーキカムの「アームの軸部分」のグリスアップ等ですね。
古いマシンだとリヤブレーキアームが固着しかけて、リヤブレーキのタッチが悪くなったりします。

Dioのリヤブレーキアームです



ここは熱を持つので、頻繁な

グリスアップが必要ですね。

下手をすると軸部分が焼き付く可能性もあります。

(画像をクリックすると拡大します。)


あとシューの減りはもちろんのこと、シューのスプリング部分が劣化してもタッチが悪くなります。
JOGの場合、シューもマメに交換した方が良いでしょう。

そして、リヤブレーキワイヤーはタイラップ等でエンジン下部に確実に固定した方が良いです。
これを忘れるとブレーキの戻りが悪くなってしまいます。


ブレーキのフィーリングは重要です。
ブレーキが悪いとここ一発という所でコントロール性を失いやすくなってしまいます。
「操りにくい」マシンでは実力を出し切れませんので・・・



基本的なFNマシン作りのコツ リヤ足廻り編


次はリヤサスとエンジンハンガーです。

このパーツもたまに曲がる事があります。

転倒してクランクケースカバーやマフラーを路面等にぶつけた場合、ダイレクトにエンジンハンガーやリヤサスに衝撃を受けます。

まず、マシンを真後ろから見て、エンジン、リヤタイヤが傾いていないか確認しましょう。

もしも傾いていれば、どこかが曲がっていて真っ直ぐ走らないようになっています。


ここで、エンジンハンガー&リヤサスの取り付けのツボを紹介します。

JOGのリヤサスの動きが悪いのは前述した通りですが、少しでもリヤサスの動きを良くする為にエンジンハンガーの

「フレーム側ボルトをガチガチに締め付けて、エンジン側ボルトをほとんど締め付けない」

という方法をとっています。なおかつ

「リヤサスの取り付けボルトを上下ともほとんど締め付けない」

という方法も合わせて行っています。

JOGのリヤ廻りです


ハンガーのフレーム側は、

ガチガチに締めてしまいます。

リヤサスの上下は外れない程度に。

ガタが出てサス剛性が下がってしまうと意味が無いので・・・

(画像をクリックすると拡大します。)



こうするとエンジンハンガー本体の無駄な動きが抑制されて、サスが良く動いてくれます。
なおかつ可動部分が一箇所減る訳ですので、さらなる剛性UPにつながります。

補足ですが、いくら「ほとんど締め付けない」と言っても、エンジン側ボルトは3kg-mで締め付けています。(リヤサスはもっと緩いですが…)

なお、Dioでも同様の方法が行えます。

ちなみに、良いサスを組んでいる場合はエンジン側、ハンガー側共に高トルクで締め付けてもリヤサスの動きは抑制されにくいです。
剛性感を上げるにはこちらの方法が良いかもしれませんね。


基本的なFNマシン作りのコツ エンジン腰上編


次はエンジン廻りをおおまかに解説します。

私は、ピストン&シリンダーはそんなに頻繁に交換しません。

なぜなら、ピストンとシリンダー間には「アタリ」が存在するからです。

「アタリ」とは、ピストンとシリンダーの「擦り合わせのきつい所」です。

新品のピストン&シリンダーでは、一度組み付けた後走行し、バラしてみるとシリンダーの内壁とピストンの外周にタテに傷が入っている場所があるはずです。
このような場合、傷の入っている場所は強く擦れあっているという事になります。

スクーターのエンジンは強制空冷のため、ピストン&シリンダーはかなりの熱膨張を引き起こします。
すると、ピストンとシリンダーのクリアランスの狭い部分(アタリのきつい所)では、かなりのフリクションロスが発生してしまいます。

これを防ぐ為には「抵抗の少ないアタリの出ているピストン&さほど内壁の擦り減っていないシリンダー」を組み合わせます。

しかしシリンダーも内壁が減りすぎていては、圧縮圧力の「充填効率」が下がってしまいます。
シリンダーを減らさない為には…「ピストンリングを頻繁に交換しない」のが一番だと思います。

少なくとも私は「確実にパワーダウンしてきた」と感じない限りはリング交換を行いません。
なぜなら、常に摩擦が発生しているシリンダーとピストンリングですが、リングを新品にした場合には「シリンダーが新品リングに合わせて削られてしまう」為、シリンダー内壁の磨耗が かなり激しくなってしまうからです。

腰上で一番消耗の激しい部分はシリンダーだと私は思いますので。
これなら「良いシリンダーを長持ちさせる」事が出来ます。

ちなみに、「シリンダーは新品の方が充填効率を保てる」という考え方の人もいますので、この辺は人それぞれのノウハウがありますね。


そして「ピストンピン」と「コネクティングエンドベアリング」ですが、これは頻繁に交換します。
ピストンピンはかなり磨耗の激しいパーツなので、頻繁な交換が必要だと思います。


Dioのピストンピン&ベアリングです



ここは磨耗が激しい場所です。

写真のようにベアリングとの当たり面が焼ける場合もあります。

エンジンを開けたら必ず交換しても良いですね。

(約500km使用のピストンピンです)


補足になりますが、私のマシンはスピードメーターを除去しておりません。
自分に入ってくる情報を少しでも多くする為です。
「体感」と「ラップタイム」だけでは感じきれない物もあると思いますので。
「メーター読み速度」もかなりセッテイングの判断材料にしています。

そのメーターの「走行距離」でのパーツ交換の目安ですが、

という感じです。

あくまで一例ですので、状況に応じて臨機応変に交換することが大切ですね。


基本的なFNマシン作りのコツ エンジン腰下編


さて、次はエンジンにとって一番重要な腰下、つまりクランクケースとクランクシャフトについて解説します。

私の経験上、クランクケースとクランクシャフトが「ハズレ」のエンジンは、

何をどうやっても速くはなりません。

これが大前提です。


まずクランクシャフトですが、真っ直ぐな棒が回転しているのでは無いですね。
変則的な形をしているクランクシャフトにブレがあると、いくらパワーのあるエンジンでも出力のロスになってしまいます。

特にプーリー装着側のシャフト部は、回転軸の支持部からシャフト末端までが長く、なおかつプーリーやドライブフェイス等の回転半径の大きい部分がくっついているので、 少しのブレでも大きく性能に影響します。

しかもドライブフェイス脱着時に無理なトルクをかけてしまうと、かなり簡単にブレを発生させてしまうのです。

エアインパクトレンチの使用や、ナットが外れないからといってメガネレンチを足で蹴る様な事は絶対にやめた方が良いです。

ドライブフェイスのナットはきちんと専用工具でフェイスを固定し、じわっと力をかけて緩めましょう。


さて、それを前提としましても、やはりクランクシャフトの「芯出し」をしておくべきでしょう。

クランクシャフトを極力真っ直ぐにするという調整です。

私は約1000分の3位の単位で芯出しを行っていますが、1000分台の作業となると自分では出来ませんので、信頼出来る所にお任せしています。

そうすることにより、かなりスムーズなエンジンフィーリングが得られます。


・・・しかし、いくらクランクシャフトの芯出しを行ってクランクシャフトがスムーズな回転をするようになったとしても、

クランクケースの精度が悪いと性能には結びつきません。

なぜなら、クランクケース(ベアリングが入った状態)は、クランクシャフトを「左右から挟み込んで」固定される物だからです。

クランクケース自体の精度は、意外と悪い物なのです・・・
極端な言い方ですが、クランクシャフトをクランクケースに組んだ場合、ケース側の精度が悪いと斜めにシャフトを挟んで固定されてしまう訳です。

要するに、クランクシャフト&ベアリングが入る穴が、右側ケースと左側ケースで大きさや場所が違うという事です。

これでは、いくらクランクシャフトを真っ直ぐに「芯出し」してもほとんど意味がありませんね。

このようなクランクケースだと、ベアリングの精度が良ければ良い程クランクシャフトを斜めにガッチリ固定してしまうのです。


そこで私は、クランクシャフトが斜めに固定されないようにある方法を使っています。(精度のいいケースを使った上で、ですが)

それは、新品状態でボールレースに少しクリアランスのあるベアリングを使用するという方法です。

クランクシャフトにわざと「ガタ」をもたせてあるという事です。

(もちろんFNでは社外品クランクベアリングの使用はNGですので、純正をいくつか購入して選定します)

そうすると、少々ケースにズレがある場合でも、ベアリングのクリアランスによってクランクシャフト自体がある程度フリーになってくれます。

なおかつ、クランクシャフト&ベアリングが熱膨張(俗に言う熱ダレ)した場合でも、

ベアリングにクリアランスがある事により、金属同士の擦れ合うフリクションロスをかなり防げる

という最大のメリットがあるのです。


ちなみに、私がベアリングを組む時には、絶対に「圧入」しません。

ケース本体を「熱して」から、ベアリングを「スコッ」と落とし入れます。

なぜなら、圧入を行ってしまうとクランクケースのベアリングの入る部分が広がってしまうからです。

そうなってしまうと、次回のベアリング交換時に「ベアリングがきちんと固定されないかもしれない」と思いますので。
せっかく調子のいい「当たり」ケースでも、使えなくなってしまっては意味が無いので…

(この辺りの詳しい手法は「スクーター改造」の腰下コンテンツを参照して下さいね)


そして、私は基本的に一度でもクランクケースから抜き取ったクランクシャフトは二度と使いません。

よほどの精度が無い限り、Dioの場合は再利用はやめた方が無難だと思います。

Dioの場合はクランクシャフトの設計自体が悪く、どんなに優しく扱ってもブレはJOGより酷くなるのが定番なので・・・

(クランクシャフトを抜いた後、100分の1〜2程度のブレでしたら再利用も可かと思いますが)

ケース自体も、2回ほどベアリング交換をすると交換すべきだと思いますよ。



最後に、簡単な「精度が良さそうな」腰下の見分け方を紹介します。

クランクシャフトを手で掴み、上下左右に動かしほんの少量ガタがあれば良い

これだけです(笑

Dioの腰下です



このようにシャフトを「振って」みます

調子の良いエンジンでベアリングにガタがあれば、

熱ダレしにくい&クランクシャフトが軽く回ると思います。

しかしあまりにもガタが多い物は壊れてます。



重要なのは、いくらガタがあるといっても「クランクの回転方向に対して横向きにガタがある」のではダメです。
そのような場合はベアリングのトラブルを疑うべきですね。

それ以前に、実際に乗ってみて自分の体感で「速い!」と思うようなエンジンじゃないとダメですが(笑

・・・このような方法はあくまで私の独断と偏見ですので、その点だけはご了承下さいね。


最初にも書きましたが、

腰下が悪いといくら他の場所をメンテナンスしても速くならない

という事です。

私はDio乗りなので、必要以上にシビアになっているだけなのかもしれませんけどね(泣


以上で基本編は終了です。

ここで述べた事柄はあくまで私の理論と経験に基づく方法です。
しかしレースというステージである以上、個人個人のノウハウも当然存在します。

ですがレースというステージに限らず、「情報量が多くて困る」ということは無いと私は思います。
色々な事を吸収し、その中から「使える」方法を見い出すのはまぎれもない「自分」ですね。

レーサーの方に限らず、色々な方々のお役に立てれば幸いです。


「スクーターレース」に戻る